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山口杏奈に平謝りして、おれは自分の鞄を掴む。
岬が乗ったエスカレーターを、「スミマセン!」と言いながら駆け降りた。
なんだよ。なにやってんだよ。おれ。
別に、浮気したわけでもないのに、なんでこんな変なことになってんだよ!!
けど、不思議なことに、目に焼き付いているのは、山口杏奈の顔じゃなくって。
あのときの岬の、無駄に明るい笑顔だった。
なんだよ。
「いとこ」ってなんだよ。
「デート?」とか聞くなよ。
「恋バナ聞かせてね」なんて、平気そうな顔して言うんじゃねぇよ。
一階まで降りてきたけれど、岬の姿は見当たらなかった。
ちくしょう。あいつ、ほんとに足だけは速いんだから。
仕方ないので、そのまま走って駅に向かう。
帰りの電車が、今まさに、ホームに着くところだった。
「す、すみません、すみませんっ……!」
相変わらず周りに謝り倒しながら、改札をくぐって、ホームへと続く階段を駆け下りる。
すると、今まさに電車に乗り込もうとする岬の姿があった。
「み、岬っ……!!」
その声もむなしく、岬は電車に乗り込む。
発車メロディの最後の一音が流れ、非情にも、もうすぐホームに着くってタイミングで電車の扉が閉まった。
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