Ⅰ 颯(小学6年生)

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「えっと……おれ、小六だけど」 そんなおれの言葉に、彼女はブンブンと首をふった。 「年なんて関係ない! てか、小学生と高校生ってインパクトあるけど、実際、四歳しか違わないしっ!」 『しか』じゃない! おれはその女子高生を見上げながらそう思う。 女子高生は、続けて早口で話し始めた。 「さっきも自己紹介したけど、わたし、栗林岬(くりばやしみさき)っていいます。あの、あ、LINEのID、misamisamisakiだから! よかったら颯くんのLINEも教えて欲しいなぁ、って」 なおも精いっぱいしゃべる女子高生に、おれはすこしだけ悩んでから口を開いた。 「あの、おれ、携帯持ってないから……」 まあ、小六だし。そりゃほしいけど、小六だし。 そんな俺の言葉に、女子高生ははっとした顔をしてからあからさまに落ち込んだ。 「あ、そっか……。でも、わたし、颯くんのことを好きな気持ちはこの先ずっと変わらないと思うの。だから、また来てもいいですか?」 そう言って女子高生は、俺より高い目線からがんばって上目使いの表情を見せた。 俺のとなりには、いつの間にかおれの友だち三人が集まって、おたがいに顔を見合わせて「わおー」とか言っている。 なんてのんきなやつら……。 「えっと……、来てもいいかって言われても、たぶん、ふだんは小学校って高校生入れないと思う」 「あっ……」 そう女子高生は小さくつぶやくと、そのうちあごに手を当てて、なにかを考え始めた。 そうしてなにかを彼女の中で納得させたようで、小さくうなずく。 な、なんだなんだ……? 「とにかく、わたし、颯くんのこと好きなんで! また会えたら! えっと……、とりあえず今日はこんなところで!」 そう言って、その高校生は逃げるように体育館から出ていく。 「やっべーもん見ちゃったぁ……」 となりで、巧がつぶやいた。 ……あとのおれたちの会話は、最初の通りである。
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