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電車が、動き始める。
ボックス席に座る岬の横顔は、おれに気づく様子もなかった。
……あー、もうっ……!
「なんなんだよっ……!」
おれも、岬も。
もう、なにがなんだか、わからない。
ただ、胸の奥が、つきんつきんと痛んで。
ここが公共の場じゃなければ、「あぁ~っ!」と、大きな声で叫び出したいくらいだ。
と。そこで、スマホがぶぶっと振動した。
慌ててスマホを見る。連絡してきたのは……。
「……なんだ、おまえかよ……」
『彼女ってなに!? どういうこと!?』
『??』
『とうとう岬さんと!?』
『やだー、颯くんやるぅ~!!』
『(クエスチョンマークをとばす犬のスタンプ)』
『(ワクワクと書いてあるスライムみたいな生命体のスタンプ)』
『(目がハートになっている猫のスタンプ)』……。
それからしばらく、巧によるスタンプ連打攻撃がおれの携帯を鳴らしていた。
あぁ、あんな浮かれた気分で、巧にラインした一時間前のおれを殴り飛ばしたい。
そのうち、だんだん、巧の使うスタンプは凝ったものになってくる。
名前を入れられるスタンプを使って、わざわざ「みさき」と名前を入れてくるのが、余計腹立つ。
『みさき、ラブ(なんかのアニメのスタンプ)』
『みさき、うれぴよ(謎の棒人間のスタンプ)』
『みさき、しあわせ!(さっきと同じ猫のシリーズのスタンプ)』
「……全然、幸せじゃねーよ」
『やっぱ無理だった。あと、岬はもう、うちに来ないと思う』
そう一言だけ巧に送って、そのまま、おれはラインの通知を切った。
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