Ⅲ 颯(高校1年生)

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電車が、動き始める。 ボックス席に座る岬の横顔は、おれに気づく様子もなかった。 ……あー、もうっ……! 「なんなんだよっ……!」 おれも、岬も。 もう、なにがなんだか、わからない。 ただ、胸の奥が、つきんつきんと痛んで。 ここが公共の場じゃなければ、「あぁ~っ!」と、大きな声で叫び出したいくらいだ。 と。そこで、スマホがぶぶっと振動した。 慌ててスマホを見る。連絡してきたのは……。 「……なんだ、おまえかよ……」 『彼女ってなに!? どういうこと!?』 『??』 『とうとう岬さんと!?』 『やだー、颯くんやるぅ~!!』 『(クエスチョンマークをとばす犬のスタンプ)』 『(ワクワクと書いてあるスライムみたいな生命体のスタンプ)』 『(目がハートになっている猫のスタンプ)』……。 それからしばらく、巧によるスタンプ連打攻撃がおれの携帯を鳴らしていた。 あぁ、あんな浮かれた気分で、巧にラインした一時間前のおれを殴り飛ばしたい。 そのうち、だんだん、巧の使うスタンプは凝ったものになってくる。 名前を入れられるスタンプを使って、わざわざ「みさき」と名前を入れてくるのが、余計腹立つ。 『みさき、ラブ(なんかのアニメのスタンプ)』 『みさき、うれぴよ(謎の棒人間のスタンプ)』 『みさき、しあわせ!(さっきと同じ猫のシリーズのスタンプ)』 「……全然、幸せじゃねーよ」 『やっぱ無理だった。あと、岬はもう、うちに来ないと思う』 そう一言だけ巧に送って、そのまま、おれはラインの通知を切った。
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