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その夜。
気分的にはもう眠ってしまいたいけれど、明日の古文は当てられるのが予告されていたので、仕方なく机に向かう。
あれ、この単語、どんな意味だったっけ。
ふとシャーペンを止めたそのとき、浮かぶのは、あいつの顔で。
『わたし、古文だけはちょっと自信あるんだよね。なんかこう、昔の女の人って、「待つ恋」って感じじゃん!? それがすっごく共感できるっていうかぁ……』
いつぞやの朝、そんなことを話していたのを思い出して、思わずおれは頬杖をつく。
こんなに、今更、あいつがなにを考えてるかわからなくなるなんて思わなかった。
あいつのことだから、あんな場面に出くわしたら、絶対泣くか怒るかすると思ったのに。
山口杏奈に、なんであんな、笑ってあいさつなんかできんだよ。
おまえの「待つ恋」は、その程度なのかよ。
……って。
傲慢にもほどがあるな、おれも。
メガネを押し上げて、眉間を指でつまむ。
気を取り直して、古文の宿題に戻った。
『今更に 恋ふとも君に 逢はめやも』
えっと、「逢はめやも」は、「め」は推量の助動詞、あとは反語だから、意味は「君に会えるだろうか、いや、もう会えないだろう」……って。
「……うるせぇよ」
そう悪態を吐いてみても、別に誰が聞いているわけでもなく。
なんとなくラインを覗いてみても、巧からのしつこいスタンプ以外、特に誰からの連絡もなかった。
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