Ⅲ 颯(高校1年生)

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その夜。 気分的にはもう眠ってしまいたいけれど、明日の古文は当てられるのが予告されていたので、仕方なく机に向かう。 あれ、この単語、どんな意味だったっけ。 ふとシャーペンを止めたそのとき、浮かぶのは、あいつの顔で。 『わたし、古文だけはちょっと自信あるんだよね。なんかこう、昔の女の人って、「待つ恋」って感じじゃん!? それがすっごく共感できるっていうかぁ……』 いつぞやの朝、そんなことを話していたのを思い出して、思わずおれは頬杖をつく。 こんなに、今更、あいつがなにを考えてるかわからなくなるなんて思わなかった。 あいつのことだから、あんな場面に出くわしたら、絶対泣くか怒るかすると思ったのに。 山口杏奈に、なんであんな、笑ってあいさつなんかできんだよ。 おまえの「待つ恋」は、その程度なのかよ。 ……って。 傲慢にもほどがあるな、おれも。 メガネを押し上げて、眉間を指でつまむ。 気を取り直して、古文の宿題に戻った。 『今更に 恋ふとも君に 逢はめやも』 えっと、「逢はめやも」は、「め」は推量の助動詞、あとは反語だから、意味は「君に会えるだろうか、いや、もう会えないだろう」……って。 「……うるせぇよ」 そう悪態を吐いてみても、別に誰が聞いているわけでもなく。 なんとなくラインを覗いてみても、巧からのしつこいスタンプ以外、特に誰からの連絡もなかった。
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