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「なーにが大人のレディだ! ずっとおれを追いかけ回してるせいで、恋愛経験値なんて一ミリも増えてないくせに!」
「あらぁ、わたくしを侮らないでほしいわ。自分の場数は少なくっても、周りのお友だちからたっくさん吸収してるのよ」
「その割に、こっちにはそのオベンキョウの成果がまったく響いて来てないけどな!」
「むっ。まぁ、ボウヤがほざいてらっしゃい! オトナのミリョク、そのうちたっぷり教えてあ・げ・る」
……なんだこれ。バカバカしい。
おれ、こんなやつのこと、昨日から思い悩んでたなんて……!
無性にムカついたので、おれは、とある仕返しをすることを思いついた。
リビングに向かおうとする岬を通せんぼするべく、腕を組んだまま、壁にどんっと右肩をつく。
斜めの目線で岬の見つめて、わざとらしくニヤリと笑った。
「そうやって子ども扱いしてるけど、おれ、もう十六になるから。油断してると、なにするかわかんないよ?」
……って。
ちょっと、クサかったかな。
なんか急に恥ずかしくなって、岬から目線を外して、そろそろと体を元の位置に戻す。
……反応がない。
いや、待て待て、なんかスベったみたいで辛いって!
「なんか言えよ!」。そうツッコもうと思って、おれはもう一度岬を見た。
すると岬は……、頬を真っ赤にして、顔をゆがませて、涙目でおれのことを見つめていて……。
「そ、颯くん、怖いぃ……」
な ん で だ よ っ !!
なにが大人のレディだ、大人のミリョクだ、バカなのかこいつは!!
……どうやら、スベったどころか、効き目がありすぎたらしい。
岬はするりとおれの隣をすり抜けて、リビングへ飛び込んだ。
「亜希子さぁん、颯くんがー!」「え、なに!? ……颯、あんた、朝からなに盛ってんのよっ!!」。そんな地獄のような言葉が、リビングの中から聞こえてきて……。
もうやだ、おれ、お婿に行けない。
そこでガチャリとリビングの扉が開いて、出てきた父さんと目が合った。
父さんはぽんと一回おれの肩を叩いて、無言で家を出て行った。
同情なんて、欲しくなかった。
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