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学校に行くと、山口杏奈が、でかめのビニール袋をどんっとおれの机の上に置いた。
「これ、画用紙とペンねっ!」
「……その節は、大変ご迷惑をおかけしました……」
縮こまるおれを見て、彼女は、「しょうがないなぁ」と言わんばかりに肩をすくめた。
「どういたしましてっ! ……でっ!? どうなった、岬さんっ!!」
興味津々な様子でおれの顔を見る杏奈に、おれは一層体を小さくすることしかできない。
「ど、どうなったというか……。結局あのあとは見失ったけど、でも、今朝普通に話せた、っていうか……」
若干、普通じゃないやりとりもあったけど……。
あ、そういや、『山口杏奈は彼女じゃない』って、岬に言い忘れたな。
……ま、いいや。あいつ、そこは気にも留めてなかったし。
そんなことを考えていると、杏奈は、ぱあっと顔を明るくした。
「え~、良かったじゃ~んっ! いいないいな、彼女が大学生って、なんかオトナって感じ~!」
「ばっ、ちげーし! 彼女じゃないから!」
おれの言葉を聞いて、杏奈の顔は一気に歪む。
「……ハァ!? ちょっと、ちゃんとしてあげなよ!?」
「ちゃんともなにも、だからおれ、別にあいつのこと好きとかじゃ……」
「この期に及んでまだそんなこと言ってるの!? ……は~、前言撤回、ガキだわ、ガキ」
「なっ……。あ、杏奈、キャラ変わってね……?」
「優等生ぶるのやめただけ! あー、バカバカしい!」
そう言って、杏奈はどかっとおれの机に座った。
周りのクラスメイトがざわついていることなんて気にも留めず、杏奈はおれを見上げて、にやりと笑った。
「ま、でも、颯のその優等生ぶったメガネは、見慣れたらイケてるかもね」
そんな杏奈の言葉に、おれは、ほんのすこしだけきょとんとしてから……。
わざとメガネのブリッジを指で押し上げて、にっと笑い返した。
「……だろ?」
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