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「颯くん!!」
人もまばらな昼過ぎの電車内。
わたしの呼びかけが車内に響いて、颯くんはぎょっとしたような顔になる。
いくら周りに人がいないとはいえ、さすがに、この声の大きさはまずかった。
わたしはちょっと反省しながら、それでも、颯くんをまっすぐ見つめた。
「あ、あの、わたしこそ、ごめん。怖いとか言って、その、泣いちゃったりして」
「あ、いや、それは……」
「でも、もう、大丈夫だから。颯くんのこと、怖くないから!」
「……は?」
わたしの言葉を聞いて、颯くんは、きょとんとした顔になる。
襲うとかは、わたしには絶対無理。無理だけど。
ほんのすこしなら、ワルい女になっても、いいかな。
「そ、颯くんなら……。なにされてもいい覚悟、ちゃんと、しとくからっ!」
「……はぁっ!?」
案の定、颯くんはあきれたような声を出す。
言った。言っちゃった。彼女さんごめんなさい。
でも、冗談でも、そんなこと言った颯くんだっていけないんだからっ!
颯くんは、両手を顔にあてて、「はぁーっ」と深くため息をついた。
その手のせいで、表情までは、読み取れなかった。
そして。
「……じゃあ、撤回するって言ったのを、撤回しとくわ」
そう、ぼそりと、呟いた。
……って、え?
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