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「でさ、付き合うの? 岬さんと」
給食も、掃除の時間も、昼休みも。
なんなら、五・六時間目に回ってきた手紙の会話でもその話題ばっかりだった巧が、帰り道もおれに聞いてくる。
「バカ。付き合うわけないでしょ。おかしいんだよあの高校生。もしくはからかってるか」
「いやー、あれはからかってるとかじゃないと思うけどなぁ」
「じゃあ頭がおかしいんだよ! もういいだろ、その話」
「やだよ、こんな面白い話あるかよー!」
巧のやつ……。
「とにかく、もうなんもないから! あの高校生もなんか多分ノリで言っただけでしょ。じゃあまた明日な!」
「おー! LINEの報告しろよな!」
「だから、携帯持ってねーっつーの!」
そう言っておれは、にやにや笑う巧に、わかれ道で手をふった。
まったく、なんでこんなことになっちゃったんだ。
せっかく今日の給食はカレーだったってのに、その味がわからなかったくらいだ。
たしか……、くりばやし、みさき、だっけ?
まぁ、もう会うこともないんだろうけど。
そんなことを思いながら、家まで残りわずかの帰り道を歩いていく。
すると、一台の赤い自転車とすれ違った。
キキーッ。
すれ違ってものの数秒、ブレーキ音が辺りにひびく。
「うそ、颯くん……?」
そのチャリの人に呼ばれて、思わずふり返る。
ついさっき名前を知ったばかりの人が、目をまるく見開いて、おれのことを見つめていた。
……なんてこった。
「颯くん、学校の帰り?」
「……そうだけど」
「そ、そっか! ……あ、あの、よかったら颯くん、このあと……、マ、マックとか、行かない……?」
そう言って、例の女子高生・栗林岬はてれてれと笑う。
これは、高校生流デートのおさそいってやつ……?
……なんだか、怖くなってきた。
「あ、あの、早く帰んないとお母さんに怒られるから! 家そこだから! じゃあ!」
そう言って、おれはすぐそこだった家まで一目散に走り、気分的に鍵までかけた。
そうして気づく。
これ、家、ばれちゃったかな。
そう思うと、嫌な予感がしてならなかった。
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