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Ⅳ 颯(高校3年生)
「やった……!」
職員室の扉を閉めた後、そう小声で言ってガッツポーズをした。
ダメ元で申し込んだ、K大の指定校推薦枠。
まさかそこにすべり込めるとは、夢にも思ってなかった。
「今年は珍しく希望者が深町だけだった。運が良かったな」と、担任は言った。
K大の指定校推薦は、郵送で送る小論文だけ。
面接もない。直接行くわけでもない。
それでも指定校だから、ほとんど、合格は決まったようなもので……。
早い話が、おれの残りの高校生活、イージーモードに突入したということだ!
「あ、颯だ。……なに、なんか、にやけてて気持ち悪いんだけど」
廊下ですれ違った山口杏奈に、けげんな顔をされる。
「……あ、もしかして、岬さんのこと?」
「ばか、違うわ。指定校通った。しかもK大」
「えっ、すごいじゃん!!」
杏奈は、ぱちぱちと小さく拍手をしてくれた。
そして、そのままにやりと笑う。
「じゃあ、これから岬さんと遊び放題じゃないですかぁ。いいなぁ、うらやましー」
「……あのさ、だから、別に岬は彼女じゃないから」
おれの言葉に、杏奈は「ハァァ!?」と、やたら大きな声で反応した。
「なんでそれで付き合ってない訳ぇ!?」
「声! 声大きい!!」
おれがそう言っても、杏奈は容赦なくまくしたてる。
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