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みんなでピザや唐揚げをつまみながら、久しぶりの会話に花を咲かせる(主に岬と母が)。
「岬ちゃん、お仕事どう?」
そう聞かれた岬は、少し考え込んでから、苦笑いのような表情を浮かべた。
「うーん、難しいです。相変わらず怒られてばっかりで……。あ、でも、歳の近い先輩はみんなすごく優しいんで、ありがたいんです!」
「昨日は会社の人とバーベキューしてたんですって?」
「そうなんです、社長さんがそういうの大好きで」
「山の中じゃ、そろそろ紅葉もキレイだったでしょ?」
「あ、はい! いっぱい写真撮っちゃいました! 見ます?」
そう言って、携帯をいじる岬。
紅葉する山々の写真を画面に表示させて、向かいに座る母たちに見せる。
「わ~、ほんとだ! 来週はわたしたちも山、行こうか。颯の受験も終わったし」
「正確にはまだ終わってないけどな! 小論文書かなきゃだし……」
「あ、颯くんも見る~?」
「適当にスワイプしていーよー」なんて言いながら、おれに携帯を差し出してくる。
別に、そんなに山の写真には興味ないんだけど……。
そう思いつつ、惰性で写真をめくっていると、会社の人たちとバーベキューをしている写真が出てきた。
そのうちの一枚。
いい笑顔で缶ビールを突き出す岬と、二十代半ばくらいの、なんかやたらと笑顔が爽やかな男のツーショットに、ふと手が止まる。
ちょうどそこで岬がおれを見て、「あっ!」とすっとんきょうな声をあげた。
「あの、それ、わたしの指導係をしてくれてる主任で、すっごいお世話になってて……」
そう言いながら、岬は何気ない様子でスマホを回収する。
いや、岬はいつも通りを装ってはいるけれど、その態度は、おれからしたらどう見ても不自然だった。
岬がそそくさとカバンにスマホをしまうしぐさを見ていると、なんだか、もやっとするような気がした。
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