Ⅳ 颯(高校3年生)

5/18

82人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
みんなでピザや唐揚げをつまみながら、久しぶりの会話に花を咲かせる(主に岬と母が)。 「岬ちゃん、お仕事どう?」 そう聞かれた岬は、少し考え込んでから、苦笑いのような表情を浮かべた。 「うーん、難しいです。相変わらず怒られてばっかりで……。あ、でも、歳の近い先輩はみんなすごく優しいんで、ありがたいんです!」 「昨日は会社の人とバーベキューしてたんですって?」 「そうなんです、社長さんがそういうの大好きで」 「山の中じゃ、そろそろ紅葉もキレイだったでしょ?」 「あ、はい! いっぱい写真撮っちゃいました! 見ます?」 そう言って、携帯をいじる岬。 紅葉する山々の写真を画面に表示させて、向かいに座る母たちに見せる。 「わ~、ほんとだ! 来週はわたしたちも山、行こうか。颯の受験も終わったし」 「正確にはまだ終わってないけどな! 小論文書かなきゃだし……」 「あ、颯くんも見る~?」 「適当にスワイプしていーよー」なんて言いながら、おれに携帯を差し出してくる。 別に、そんなに山の写真には興味ないんだけど……。 そう思いつつ、惰性で写真をめくっていると、会社の人たちとバーベキューをしている写真が出てきた。 そのうちの一枚。 いい笑顔で缶ビールを突き出す岬と、二十代半ばくらいの、なんかやたらと笑顔が爽やかな男のツーショットに、ふと手が止まる。 ちょうどそこで岬がおれを見て、「あっ!」とすっとんきょうな声をあげた。 「あの、それ、わたしの指導係をしてくれてる主任で、すっごいお世話になってて……」 そう言いながら、岬は何気ない様子でスマホを回収する。 いや、岬はいつも通りを装ってはいるけれど、その態度は、おれからしたらどう見ても不自然だった。 岬がそそくさとカバンにスマホをしまうしぐさを見ていると、なんだか、もやっとするような気がした。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加