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食後のケーキも食べ終わって、岬が家に帰るとき。
「送ってやんなさい!」と、母に家を閉め出された。
……まったく、ほんと、強引な人だ。
「良かったのに。残業でこんな時間になるのもしょっちゅうだし」
そう言って、岬はたははと笑う。
なんとなく、スマホを見る。時間は十時前だった。
「残業、そんなに多いの?」
「そろそろ、繁忙期だからね」
「……なんか、残業ばっかって、よくない気がするんだけど」
「うーん、小さな会社で、労組とかないからね。でも、みんないい人たちだから、そんなに悪くもないよ」
ハンボーキ。ロークミ。
聞いたことがない言葉が続いて、口の中で、もごもごとその言葉をくり返す。
でも、「なにそれ」と聞くのもシャクだったので、そのまま黙っていた。
と。
そこで、突然、岬のスマホのバイブが鳴る。
「……あっ、ちょっと、颯くんごめんね!」
そう言って、岬はその電話に出た。
「はい、栗林です! はい、明日の打ち合わせですよね。あー、たしか切らしていたと思うので、朝コンビニで買っていきます。はい、はい、わかりました。あ、いえ、大丈夫です。澤山主任こそ大変ですね。では、失礼します」
「……会社の人?」
「えっ!? あ、うん、先輩。でも、そんな大した用じゃなかったから平気!」
……大した用じゃないのに、日曜の夜に、電話なんかしてくるのか。
サワヤマシュニン。
電話相手の男の名前も、なんとなく、岬にばれないところでもごもごとくり返していた。
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