Ⅳ 颯(高校3年生)

11/18
前へ
/93ページ
次へ
公園から突然飛んできたサッカーボールが、おれの頭を直撃した。 「だ、大丈夫、大丈夫。ほれ」 「ありがとうございまーす!」。そう言って、少年は、おれが投げ返したボールをキャッチする。 ずれたメガネを戻しながら、もう一回スマホを見た。……って、あれ? 「やっべ!」 ボールの衝撃で、メッセージの「送信」ボタンを押したらしい。 やばい、既読になる前に消さないと……って、あれ、既読!? え、これ、どうしよう。そう思っていると、途端に、携帯が震えだした。 おれは観念して、その電話に出る。 「……は、はい……」 『颯くんっ!? なぁにっ!?』 「……え、あ、いやー……。大した用じゃなくって。母さんが『紅葉見に行きたいから、土曜日、岬ちゃんも暇なら』って……」 『えっ、行きたい!! ……けど、土曜、昼から出勤してくれないかって頼まれちゃって……』 「あ、じゃあ、全然いいから! 気にしないで! 忙しいとこ、ごめん」 『ううん、ちょうどお昼食べてたから大丈夫! 亜希子さんに、次は絶対行きたいですって言っといてぇ~!』 「わ、わかった、じゃあ……」 そう言って、通話を切った。 ……なんか、ホッとしたような、なんというか……。 にしても、「お昼食べてた」って言ったっけ、あいつ。 首をかしげながら見上げた公園の時計は、午後四時四十七分を指していた。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加