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「おつかれさまでしたー」
そう挨拶をして、おれはゲーセンを出た。
金曜の、十時過ぎ。駅前は、浮かれたやつらでごった返していた。
途中、へべれけになったおっさんとぶつかりそうになる。
普段はあんなに偉そうにしてるくせに、なんで大人って、酒が入ると、あんな馬鹿みたいになっちゃうんだろう。おれもそうなるのかな。
そんなことを思いながら、裏通りを歩いていく。
ふと、巧が言っていたことを思い出した。
「十時過ぎ、ライブハウスの前」……か。
……べ、別に、心配な訳ではないし。まぁ、ちょっとだけ、気になるだけだし。
そう思って、ほんの少しだけ、遠回りをする。
ライブハウスの前まで来て、さりげなく、辺りを見回した。
ライブ終わりの若者、キャバクラのキャッチ、酔っ払いの中年のおっさんたち……。
そんなやつらの顔を順番に眺めて、ふと、我に帰る。
……まぁ、いるわけねーよな。バカか、おれ。
そう思って、帰ろうとした、その時だった。
「あのっ、ご馳走様でしたっ!!」
……ん?
聞き覚えのある声に、とっさにふり向く。
岬と、写真のあいつが、居酒屋から出てくるところだった。
……マジかよ!?
そう思って、とっさにライブハウスの立て看板の後ろに隠れる。
あ、明らかに怪しい。けど、そんなこと言ってる場合じゃない。
「部長、今日も来られなくって残念でしたね」
「忙しい人だからね」
そんな会話をしながら、隠れるおれの隣を通過しようとする。
岬の『颯くんセンサー』が、今日に限って働かないことに、ホッとするというか、モヤッとするというか。
「じゃあ、澤山主任は駅裏ですもんね。わたし、向こうなんで、ここで」
やっぱりアイツか、サワヤマシュニン!!
ま、まぁ、もう解散みたいだし。
あいつがサワヤマシュニンと別れたあと、偶然っぽく声かけて、家にでも送って行くかしょーがない。
そんな風に思っていると……。
そのあとの光景に、おれは、目を疑った。
ぱしっと、サワヤマが、岬の右手を掴んだのだった。
「……は?」
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