Ⅳ 颯(高校3年生)

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「……えっ?」 「あ、あの、俺……、栗林さんのこと、かわいいと思ってた。……今日、帰したくない」 …………ドラマか、これ。 そんなサワヤマの言葉を聞いて、おれは、なぜか冷静にそんなことを思っていた。 そのうち、心臓が、半端ないスピードで鳴り始める。 自分のものではないような感覚になる足で、なんとか、地面を踏みしめた。 「……あ、あの、主任……。こ、困ります。わたし、帰らなきゃ……」 「……じゃあ、なんで、今日来たの?」 「えっ?」 「部長が来ないって、本当は、最初から気づいてたんじゃないの?」 「そ、そんなこと……」 「彼氏、いないんでしょ。どう? お試しで」 「か、彼氏はたしかにいませんけど、でも、わたし好きな人が……」 「彼氏じゃないならいいじゃん。ここにいたら目立つし、とりあえず、入ってから考えない?」 ……どこにだよ。おれに教えてみろよ。 そう心のなかでツッコんだときには、もう、体が動いていた。 「しつけーんだよ、このクズ野郎!!」 サワヤマの胸ぐらをつかんで、岬からひっぺがえす。 「な、なんだ、おまえ!」 「そ、颯くん!?」 驚きで岬から手を離すサワヤマ。 それを見て、おれは、思いっきりサワヤマを地面にぶん投げた。 サワヤマが尻餅をついておれを見上げる。 「こ、高校生!? 弟……!?」 そんなサワヤマのつぶやきに、とうとう、おれはおれを見失った。 「ちげぇよバーカ!! おれの女に、手ぇ出してんじゃねぇっ!!」
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