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……。
…………。
…………気まずい。
あのあと、サワヤマは、「なんだよおまえっ」と言い残して、逃げるように帰って行った。
「い、行くぞ」「あ、はい」。
そんな不思議な間の会話をして、おれと岬は、そのあとまったくの無言のまま、並んで歩いていた。
その間、自分がしでかしたことが、走馬灯のように駆け巡って、毛穴という毛穴から変な汗が噴き出してくる。
ところで「走馬灯のように」って、死ぬ間際以外にも使うんだっけ。
なんなら、今、死にたいくらいの気分だけど……。
おれよりわずかに後ろを歩く岬が、今、どんな表情をしているかわからない。
けど思えば、今までの時間、岬がおれのあんな言葉に反応しないことのがおかしかった。
……もしかしたら、もしかして。
「こいつ余計なことしやがって」って、内心、思ってるのかも……。
そう思うと、きゅっと、胸が痛んだ。
もう、負けた。
負けだ。降参だ。
おれ、岬のこと、バカみたいに好きだ。
「……颯くん」
そう、岬に呼び止められるだけで、心臓がどきりと跳ね上がる。
おれは、岬の顔が見られないまま、体だけ振り向いた。
「……なに?」
「……あの……。ごめん……」
「ごめん」。
岬が謝る理由を考えて、途端に気持ちが凍っていく。
その言葉は、おれの気持ちに?
今までの、六年間に?
そう心の中で問いかけていると、すんっと、鼻をすする音がした。
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