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「ごめん。心配かけて、ごめん。怖かった。もしかしてと思ったけど、先輩だし、断ったら自意識過剰かなって、断れなかった。颯くんが偶然通りかからなかったらって思うと、今も怖くてしょうがない。ごめん。あんなこと言わせて、ごめん。心配かけて、迷惑かけて、ごめん。……ほんと、ごめんなさぁい……」
視線を戻した先の岬の顔は、ものの見事にくっちゃくちゃだった。
そんな岬の顔を、誰にも見られたくなくって、おれは岬に近づいて、岬をぎゅっと、抱きしめる。
そっと、そっと。
「……颯くん……?」
「心配、かけさせてよ」
気付いたら、口が、そう喋り始めていた。
喋り始めたら、もう、止まらなかった。
「心配だよ。心配だったよ。最近の岬、無理して笑ってるみたいで。なんか痩せたし、会社ブラックみたいだし、本当はあんまりお酒なんて飲まないくせに飲まされてるし。おまえ、すぐ無茶すんじゃん。すぐ空気読もうとすんじゃん。そのくせ、『わたしは大丈夫』みたいなことすぐ言うじゃん。前向きでいようとするのも人を信じすぎるのも大概にしろよ。おれの身にもなれよ。性格なおせとは言わないけど、せめて、心配ぐらい、かけさせてよ……」
おれは、まだまだガキで、頼りないかもしれないけど。
でも、頼ってほしかった。愚痴ってほしかった。弱音を、吐いてほしかった。
対等に、なりたかった。
「かわいい颯くん」じゃなくて、一人の男として。
「……颯くん、泣いてる……?」
「……えっ?」
あろうことか、岬にひっぺがえされる。
そして、まじまじと、顔を見上げられた。ちょ、ちょっと!
「み、見るなよ! やめろバカ!!」
「そ、颯くん、わたしのことで泣いてくれてるの? ……あー、もう、幸せすぎて死ぬ……」
「なんでそうなるんだよ! さっきまで自分のがボロボロに泣いてただろっ!!」
「……はっ、いけないいけない。せっかく合法的に抱きついていい大チャンスタイム、一秒でも無駄にするわけにはいけないっ」
ぎゅむっ。
そう言って、岬は、思いっきりおれを抱きしめる。
あっ、ちょっ。
さっきは気にしてなかったけど、そんなに強く抱きしめられると、あの、む、胸が……。
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