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翌朝、土曜日。
飲んだこともないのに、おれの方が二日酔いの気分だ。
あのあと、へらへら笑う岬を家まで送り届けて、家に帰って「遅い」と母に叱られて、それからご飯食べて風呂入って死んだように寝ていた。
……もしかしたら、昨日のこと、夢だったのかもしれない。
そんな風に思い始めて、おれは、朝ごはんを食べに階段を降りて行く。
あー、今日、バイトじゃなくて良かった。心の疲労が半端ない……。
と。ちょうどその時だった。
コンコン。
玄関が、二回、叩かれる。
……チャイムを鳴らさないで、ノックするやつなんて、それって……。
がちゃり。
「おっはよーございまーすっ!! あっ、颯くんおはようっ!!」
なんで! お前は! そんなに元気なんだよっ!!
「……なんでいんの。今日昼から仕事だろ」
岬は、気まずそうにてへらと笑った。
「あー、えっとー、ちょっとー、昨日の今日じゃ行きづらいじゃん、さすがに……」
と。
そこで、岬は、背負っていたリュックサックをおれに見せる。
「と、いうことで! 今日の出社はズル休みして、深町家のハイキングに、お呼ばれしようかと……!」
……は、ハイキングぅ……?
こいつ、なに言ってるんだ?
……って、あ!
も、もしかして、あの、サッカーボールぶつけられた時に電話で言った、あの……!!
「紅葉狩り、楽しみだなぁ! 先週よりきっと、今週のがキレイだと思……」
「あー!! それ、それなんだけど!! 母さんがすっごーく行きたがってたんだけど、昨日、父さんギックリ腰やっちゃったみたいで、中止ってことで!」
「えっ!? 嘘、大丈夫ですかっ……」
「あっ、ちょっと、今寝てるから! 面会謝絶! 岬ちゃんに情けない姿見せられないって言ってる!」
もう、自分でも言ってることが無茶苦茶だ。
でも、こんなおれの嘘に嘘を重ねたような言い訳を、すっかり信じたようで、岬はしゅんっとした顔になった。
あー、こいつがバカでよかった。
「そっかー。じゃあ、また出直すね。お父さんによろしくお伝えしてね!」
そう言って、岬は玄関から出ようとする。
お、おれのデタラメをここまで信じている岬を見ていると、なんだか、罪悪感がすごいというか……!
「ま、待って!」扉を開けた岬を、思わず呼び止める。「……行く? 二人で」
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