82人が本棚に入れています
本棚に追加
マッハでそれっぽい服に着替えて、「あがってもらえばいいのに」とのたまう母に「いいのっ!!」と噛みつき(あとで怒られよう)、岬にあいさつしたいと出て来そうになった父を「今日のところは勘弁して!!」と謎にリビングに押し込め(父さんマジでごめん)、財布と携帯とタオルだけカバンにつっ込んで家を出た。
ほ、ほんと、下手な嘘は言うもんじゃない……。
駅までの、いつもの道。
おれの隣では、岬が、楽しそうに鼻唄なんか歌っている。
……ほんっと、おれの気も知らないで。
「颯くんとデート、颯くんとデート~♪ ……って、あれ? もしかしてこれ、初めてじゃないっ!?」
……やっと気づいたか、バカ。
「こ、これは、ひとつの進展と捉えてもいいのではないでしょうかっ!? 昨日、主任への嘘とはいえ、『おれの女』なんて言ってもらえた訳ですしっ……!」
……そこは気づいてなかったか、バカ。
「……嘘じゃ、ないけど」
こっぱずかしくって、岬の方を見ずに言う。
「……え?」
「ホントに、そうなればいいと思ってる。『おれの女』」
……無言。
間が持たなくなって、おれは、ゆっくりと岬の方を見た。
すると岬は、おれと目があった瞬間、へたりと道に座りこんで……。
「あっ、ちょっと……!」
「こっ、腰……。腰抜けた……」
「な、なんでだよっ! 立てよ、ほら、汚いし危ないしっ!」
「わ、悪い冗談、颯くんが言うからっ……!」
「バカ、冗談じゃねーよ。岬が好きだって言ってんの」
「……ひ、ひぃぃ!! か、帰るっ、帰ってもう一回寝直して来るっ!!」
「だから、なんでそうなるんだよっ!!」
「そ、そーゆーの、フツーのデートなら別れ際に言うやつじゃんっ!! なんでこんな初っ端からさらっと言うかなぁ!!」
「昨日ので伝わったと思ってたんだよっ!!」
「わかんないよ、そんなの! ……はー、なにこれ、夢かな、幸せすぎる、やっぱ夢だな出直して来よう……」
「……おまえ、情緒ぐっちゃぐちゃだな」
ぐるぐる変わる表情に、つい、吹き出してしまう。
……願わくは、ずっと。こんな風に、笑っていてほしい。
おれが、岬を守れるくらいの、ちゃんとした大人になるまで。
そして、その先も、ずっと。
最初のコメントを投稿しよう!