Ⅳ 颯(高校3年生)

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マッハでそれっぽい服に着替えて、「あがってもらえばいいのに」とのたまう母に「いいのっ!!」と噛みつき(あとで怒られよう)、岬にあいさつしたいと出て来そうになった父を「今日のところは勘弁して!!」と謎にリビングに押し込め(父さんマジでごめん)、財布と携帯とタオルだけカバンにつっ込んで家を出た。 ほ、ほんと、下手な嘘は言うもんじゃない……。 駅までの、いつもの道。 おれの隣では、岬が、楽しそうに鼻唄なんか歌っている。 ……ほんっと、おれの気も知らないで。 「颯くんとデート、颯くんとデート~♪ ……って、あれ? もしかしてこれ、初めてじゃないっ!?」 ……やっと気づいたか、バカ。 「こ、これは、ひとつの進展と捉えてもいいのではないでしょうかっ!? 昨日、主任への嘘とはいえ、『おれの女』なんて言ってもらえた訳ですしっ……!」 ……そこは気づいてなかったか、バカ。 「……嘘じゃ、ないけど」 こっぱずかしくって、岬の方を見ずに言う。 「……え?」 「ホントに、そうなればいいと思ってる。『おれの女』」 ……無言。 間が持たなくなって、おれは、ゆっくりと岬の方を見た。 すると岬は、おれと目があった瞬間、へたりと道に座りこんで……。 「あっ、ちょっと……!」 「こっ、腰……。腰抜けた……」 「な、なんでだよっ! 立てよ、ほら、汚いし危ないしっ!」 「わ、悪い冗談、颯くんが言うからっ……!」 「バカ、冗談じゃねーよ。岬が好きだって言ってんの」 「……ひ、ひぃぃ!! か、帰るっ、帰ってもう一回寝直して来るっ!!」 「だから、なんでそうなるんだよっ!!」 「そ、そーゆーの、フツーのデートなら別れ際に言うやつじゃんっ!! なんでこんな初っ端からさらっと言うかなぁ!!」 「昨日ので伝わったと思ってたんだよっ!!」 「わかんないよ、そんなの! ……はー、なにこれ、夢かな、幸せすぎる、やっぱ夢だな出直して来よう……」 「……おまえ、情緒ぐっちゃぐちゃだな」 ぐるぐる変わる表情に、つい、吹き出してしまう。 ……願わくは、ずっと。こんな風に、笑っていてほしい。 おれが、岬を守れるくらいの、ちゃんとした大人になるまで。 そして、その先も、ずっと。
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