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「なんか、人生の違うステージにいる感じだったなー。悦子って、もっとキャピキャピした感じだったのに」
えっちゃんと別れたあと、えみりがぼそっとつぶやいた。
「うーん……。まぁ、たしかに、わたしたちにはまだ考えられない生活かもねぇ……」
「ま、あたしはそろそろ考えていきたいけどね」
えみりは、指を数えていく。
「今から婚活して、運よくいい人見つけたとして。で、それから最低でも一年は見極めたいのね、あたし。それから、婚約して、結婚するまでたぶん半年はかかって、そのあともしばらくは夫婦ふたりの時間も欲しくて、それから子ども……って考えると、二十代とか案外あっという間だなーって」
そうぺらぺらと喋るえみりを見て、わたしはきょとんとする。
「よ、よく考えてるね」
「まぁね。会社の先輩と、そんな話ばっかしてるから」
「あ、バス来た。じゃ、またね」。そんなことを言って、えみりは、わたしに手を振った。
紺の大人っぽいワンピースの裾が、さらりと揺れた。
この歳になって、改めて、「大人」ってなんなんだろうって考えてしまう。
そりゃ、わたしは一応社会人だけど。
でも、昼間の行先が学校から職場になったぐらいで、そんなに毎日は変わらない。
家にいくらかのお金を入れてはいるけど、別にわたしが家計のやりくりをしている訳でははないし。
家事だって、お父さんがいないと成り立たないところもあるし……。
そう思うと、実家を出て旦那さんと暮らして、赤ちゃんまで育ててるえっちゃんが、すっごく「大人」に感じた。
「もうすぐ職場の近くでひとり暮らしするんだ」なんて話してくれたえみりもまた、わたしからしたら、「大人」だった。
「ねぇ、来年にはもうわたしたち、アラサーっていうのかな」
「四捨五入したら、そうなるよね……」
「つら~……」
そんな二人の会話を思い出して、「いやいや!」と、大げさに首なんか振ってみた。
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