Ⅴ 岬(24歳)

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「かんわいぃ~……」 ついさっきの余韻のせいで、オシャレな雑貨屋さんのベビーコーナーで立ち止まってしまう。 特にあの、トトロのよだれかけとか。 ゆずちゃんみたいなかわいい子がしてたら、絶対かわいいよなぁ。 ……も、もし。将来、わたしたちにも子どもが生まれたら、そのときのために……! 「買いません」 「えっ!? な、なんのこと!?」 「『将来、颯くんと結婚して子どもができたら、このよだれかけつけさせたい~!』って思っただろ、今」 「な、なぜバレた!」 「何年の付き合いだと思ってるんだよ。岬のヨコシマな考えなんてお見通しですー」 そう言って、颯くんは得意げに笑いながらベビーコーナーを立ち去る。 バレたことが恥ずかしいような、でも、『何年の付き合いだと思ってる』なんて言葉が、すっごく嬉しいような。 ……でも、わたしの脳内を読んで、颯くんはその妄想に一体どう思ってるんだろう。 わたしの気持ちは颯くんにバレバレでも、颯くんの気持ちは、わたしにはなかなかわからないよ。わたしのが、お姉さんなのに。なんか悔しい。 そう頬をふくらませていると、どこからか、「かしょん、かしょん……」と、ふりこが揺れるような音が聞こえてきた。 音のする方に目をやると、その音の主は、黒い猫の形をした時計だった。 しっぽがゆらゆらと、ふりこになって揺れている。 「なんかあの時計、かわいー……」 そうわたしがつぶやくと、「時計?」と、颯くんも立ち止った。 「時計? ……なんかあれ、見たことある気がする」 「レトロでかわいいもん! 昔、ほかのお店とかで見て覚えてるんだよ」 「うーん、なんか違う気が……」 そう言って首をひねっていた颯くんは、突然「あ」と声をあげた。 「わかった。バック・トゥ・ザ・フューチャーだ。最初のシーンに出てくるやつ」 「ばっくとぅ……あ、それ、颯くんの好きな映画だっけ」 「うん。そう思うと、ちょっと欲しいな……」 おっ? わたしは頭の中のメモ帳に、「猫の時計 ばっくとぅざふゅーちゃー」とメモする。 「単純にかわいいしね! いいと思う」 「そう? いくらだろ……って、九千円か。アンティークだからかな、結構するな……」 おっ、おっ? プレゼントとしても、ちょうどいい値段じゃない? 「そだねー、ちょっとお金貯めないとかもねー」 「そうだな」。そんな答えを待っていると、颯くんは、颯くんらしからぬことを口走った。
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