Ⅴ 岬(24歳)

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「ま、こーゆーのって一期一会だし、買うか」 「えっ!?」 「……なに、その驚きよう」 「だ、だって、颯くんって一万円するようなもの、ポンって買わないじゃんっ!」 「なんだよ、たまにはいいじゃん」 「ほ、ほら、いつも『金が足りねぇ』とか言ってるし……」 「昨日バイト代入った」 「うっ……」 ま、待って! 今ここで颯くんに買われちゃうと、わたしのプレゼント計画がっ! そう思って「ちょっと考えた方がいいかもよ」なんて押し問答をしていたけど、最終的に、 「岬もかわいいって思うくらいだから、誰かに買われちゃうと嫌だ」 なんて言って、店員さんに話しかけにいってしまった。 ……あぁ、せっかくちょうどいいと思ったのに。 そう思っていると、時計を手に持った颯くんが戻ってくる。 そして、「ちなみに」なんて、話し始めた。 「おれの誕生日プレゼント、とか考えてるなら、別に気にしなくていいから」 ……なっ! ま、またっ……!! 「な、なんでよ! てか、またなんでわたしの心読むのよっ、読めるのよっ!!」 「だってわかりやすいんだもん。明らかに挙動不審だったし」 そ、そうかなぁ。 とにもかくにも、作戦が失敗した今、ここはもう強行突破しかない。 「じゃあ、なんでもいいから、なんかリクエストしてよ! ほら、財布とかカバンとか、服とか」 「それ、クリスマスと記念日でもらったじゃん。服もユニクロで適当に買うし」 「そ、そんなこと言われても! それ以外思い浮かばないんだけど」 「あ。欲しいもの、あった」 「な、なにっ!?」 「岬が欲しい」 「……ふへへへへへ」 「変な顔」 「だ、誰のせいよっ! てか、今、本気でプレゼントのこと聞いてるのっ! そーゆー冗談やめてってばっ!!」 「えぇー。じゃあ、かわいい下着でも買っとけばー?」 「……な、なっ……!! そ、颯くんのエッチ!!」 颯くんは、叩こうとしたわたしの右手をひょいっとよけて、けらけらと笑う。 ほんっと、もう! 未だにわたしがそういう冗談でドギマギしちゃうの、わかっててっ……! ……でも。 「岬が欲しい」、なんて。 颯くんにとっては冗談でも、今日のわたし、ちょっとそういうの、敏感なんだけどなぁ。
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