Ⅴ 岬(24歳)

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「なんか甘いものが食べたい」と颯くんが言ったので、一階にあるサーティワンを目指す。 お店の前に、制服を着た高校生の男女たちが、六、七人ほどたむろっていた。 ギターケースを持っている子たちが多いから、軽音楽部とかかな。 いいなー、練習終わりにみんなでサーティワン。青春だなー。 そんな風に思っていると、颯くんが突然「あ、やべっ」と言い出す。 「……どうかした?」 「あ、いや。あのさ、おれ、急にスタバのフラペチーノにしたくなった。期間限定のやつ、今、ナッツだったっけ。あれがいいなー……」 そう言って、回れ右をしようとする颯くん。 すると、高校生の群れから、「あっ!」と、女の子の大きな声が聞こえた。 「颯ちゃん先輩だぁー!!」 ……そ、「颯ちゃん先輩」っ……!? 「うわ、見つかった」 颯くんが小声でそうつぶやきながら後ずさりする。 と、その女の子の隣にいた唯一私服姿の男の子も、「あ」と声を挙げた。 「あ、おーい、颯~っ! 助けてぇ~!!」 「ひ、人違いですけどー?」 「嘘つけ、逃げんじゃねーっ!」 なんだか、ずいぶんと仲がよさそうだ。 颯くんの友だちのこと、そういえば、あんまり聞いたことなかったかも。 颯くんのことを呼んだ二人は、仲良くこちらへ駆け寄ってきた。 「颯ちゃん先輩、あたし、ストロベリーチーズケーキがいいです!!」 「アイちゃん、とりあえず、挨拶の前に人にたかるのはやめようか?」 「颯、助けて、あの人数に一人でサーティワンは無理ゲーだって……!」 「たぶんだけど、『なんでもおごってやるぜ、ついてこい』って調子乗った巧が全部悪いと思う」 「ぐはっ! な、なぜバレた……」 そんなやりとりをしていた二人は、ふと、わたしの方を見た。 「って、あっ、えっと……、岬さんっ!?」 男の子の方に名前を呼ばれて、思わずドキリとする。 「えっ、岬さんって、颯ちゃん先輩が関係をウヤムヤにし続けてきたあの年上お姉さんっ!?」 「アイちゃんの認識、だいぶアップデートした方がよさそうだねぇ!?」 そう颯くんにツッコまれて、アイちゃんと呼ばれた女子高生はてへへと笑った。 彼女のポニーテールが、さらりとしなやかに揺れた。
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