Ⅴ 岬(24歳)

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「あ、おれ、岬さんに一回会ってますよ。岬さんが体育館で颯に告ったとき隣にいたの、おれっす! 二度目まして!」 男の子に言われて、わたしは思わず「えっ」と声を漏らす。 颯くんに告ったって、小学校の体育館で……って、あぁ! 「あ、あの時の、颯くんのお友だち!」 「はいっ!」。そう言って、彼はにかっと笑った。 隣で、女子高生も同じようにまぶしく笑う。 「あ、あたしははじめましてです! 颯ちゃん先輩にはたまにご馳走になってまっす!」 「主に巧がいっつもこうやって人を巻きこんでるだけだけどね」 「おぉ~い、おまえらぁ~、財布が増えたから、やっぱシングルじゃなくてダブルまでなら買ってやるぞぉ~」 「言ってるそばから! てか、アイちゃんだけならともかく、なんで知らない他の子の分まで俺が巻き込まれんだよ!!」 そんな颯くんのツッコミもむなしく、「イェーイ」と、ちょっと離れたところにいた他の子たちは多いに盛り上がっている。 「そもそも、おれ、今デート中なの! ちょっとは『邪魔しないでやろう』って気持ちねーのかよ!」 「いや、ある。あるよ。けど、背に腹は代えられないというか、単純に、見栄張ったはいいけど手持ちがアブナイっていうか……」 「このやろぉ……。今度ゼッタイ焼肉おごれよ」 「わ~、颯さま~!!」 「さっすが颯ちゃん先輩~! じゃあ、キャラメルリボンもいいですかー!?」 「ほんとごめん、ちょっと待ってて」。 そう言って、颯くんは二人に挟まれながら高校生の輪につっ込んでいく。 高校生の制服軍団に囲まれても違和感がないことに、改めて、颯くんの若さを思い知る。 「わたし、もうあの輪の中、入れないな」。 そんな風に思ってしまって、つきんと、胸が痛む。 近くのショップのショーケースに映る自分の姿を見て、少しは大人っぽく見えるんじゃないかと思って選んだそのピンクのワンピースが、なんだかちょっと恨めしく思えた。
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