Ⅴ 岬(24歳)

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「岬、待たせちゃってごめんっ! はいこれ、岬の分。イートインスペースはあいつらに占拠されちゃったけど、岬、これも好きだよね」 それから、しばらくして。 輪の中から抜けてきた颯くんは、そう言って、わたしにドリンクを差し出した。 ベリーベリーストロベリーで作ったシェイク。 ……さすが、わたしの好きなものはお見通しだ。 「ありがと、お金渡すね」「いや、おれのおごり」「ううん、颯くんにおごらせられないもん」。 そんなやり取りをしていると、さっきの二人が、またも颯くんに駆け寄って来た。 「あの! 颯、岬さん、せっかくなんで、よかったらこのあと一緒にラウワン行きませんっ? ボーリングかカラオケかで悩んでるとこなんすけど」 「おいこら。おれ、デート中なんだって。これ以上巻きこむな、あっち行け、しっしっ」 「あっ、ひでぇ! おれたちも岬さんと絡みたいのに!」 「絶対余計なこと言うの最初からわかってんだからな。きみたちが岬と話すことはなにもありません!」 「あっ、じゃあせめて、颯さまのUFOキャッチャーの腕前でアイちゃんにぬいぐるみ取ってあげて下さいっ!」 「安室さんのが欲しいです!」 「あ、アムロサン? って、取らねーよ! それならせめてウチのゲーセンでお金落としに来い」 ……本当に、仲良しなんだな。この子たちと。 わたしはおもむろに携帯を取り出して、「あっ!」と、わざとちょっと大きめに声を挙げる。 「颯くん、ごめん! わたし、今夜、伯母さんと約束してたの忘れてた! 帰らなくちゃ!」 「……へ? あ、そうなんだ。なら、車で送って行く……」 「いいよいいよ、駅、そこだし! お友だちもいるし、遊んで行ったらいいよ!」 「えっ!? そ、それはさすがに悪いですっ! 僕らのことは気にしないでください!」 「いーのいーの、むしろおねーさんのことのが気にしなくていいから! わたしとも話したいって言ってくれたのにごめんね。今日は若い人たちで遊んでらっしゃいな!」 そう冗談っぽく言って、わたしは「ほんとごめんね! あ、シェイクの代わりに、今度なにかおごらせてね!」と颯くんに手を振った。
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