Ⅴ 岬(24歳)

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なにか言いたげな颯くんに背を向けて、わたしは駅に続く通路へ向かう。 颯くんたちと距離を置くにつれて、どんどん自分の足が早足になるのがわかる。 ……なんか、昔も、こんなことあったな。 そうだ、あれは、颯くんが高一になったばっかりの時、女の子と仲良さそうに買い物してたのを、偶然見かけちゃったときだ。 あのとき、「追いかけてくれてないかな」なんて、一瞬期待してふり返ったけど、結局颯くんはいなくて。 ……見なきゃいいのに、今日も、駅の改札の前で、一瞬、ふり返ってしまう。 けれどやっぱり、颯くんは、そこにはいなかった。 「自分はなんてめんどくさいやつだ」と思うと同時に、あの頃となにひとつ変わっていない自分に、嫌気がさした。 ピピッとかざすスイカの音が、右耳の奥で渦巻いていた。 颯くんが買ってくれたシェイクを片手に、わたしはぼうっと、電車が来るのを待っていた。 ……まぁ、伯母の話なんて、もちろん嘘で。 あろうことか、このわたしが、颯くんとのデート、ほっぽらかしてしまった。 でも。 今日のわたし、なんか、変なんだ。 こんな中途半端なオトナが、颯くんから年相応の青春を奪っちゃってるんじゃないかと思うと、居ても立っても居られないんだ。 颯くんが本当に味わうべき幸せを壊してないかと思うと、不安で不安で、たまらなくなっちゃうんだ。 颯くんと付き合えて、二年。 今まで知らなかった颯くんを知って、どんどん颯くんのこと、好きになるのに。 好きになるたび、臆病になっていく。 恋って、もっと、人を強くしてくれるんじゃなかったの。 大人って、もっと、強いんじゃなかったの。 ……明るいだけが、わたしの、唯一のとりえなのに。 どんどん自分が自分じゃなくなってしまうような気がして、シェイクのカップをぎゅっと握り締める。 残りのシェイクをずずっと吸い込んで、やって来た電車にとぼとぼと乗り込んだ。 空いている席がないかキョロキョロしていると、「あら?」と、聞きなれた声が聞こえた。 「岬ちゃん?」 とつぜん名前を呼ばれて、驚いて顔を上げる。 そこには、今一番、会うと気まずい人が……。
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