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空いているボックス席に、二人で並ぶ。
座るなり、亜希子さんは、体ごと私に向き直った。
「あのね、岬ちゃん。わたしは颯の母親だけど、でも、岬ちゃんのことも本当の娘だと思ってるくらい大事なんだから。颯が岬ちゃんを泣かせることがあったら、それこそタダじゃおかない……」
「ち、違うんですっ、本当に颯くんは悪くないんです~っ!」わたしは慌てて、両手を振る。「……ただ、わたしに、自信がないだけで」
「自信?」
首をかしげる亜希子さん。
わたしは少し迷ってから、ぽそりとつぶやいた。
「……わたし、ピンクのワンピースなんです」
わたしのその言葉に、亜希子さんは途端にきょとんとする。
「……あ、うん。そ、そうね、見たらわかる……」
「あ、えっと、たとえ! たとえみたいな!」
わたしはじたばたと上半身を動かして、なんとか軌道修正を図る。
「なんというか……。颯くんと同世代の女の子たちが着ている服に比べたら大人っぽくて、でも、自分の友だちが着ているような紺とかのワンピースに比べたら全然子どもっぽくって。……中途半端なんです、わたし」
そんなわたしの言葉を、亜希子さんは、ただただ黙って聞いてくれていた。
わたしは、話を続ける。
「こんな中途半端なわたしが、颯くんと一緒にいていいのかなって。颯くんはまだ二十歳だから、もっとたくさん友だちと遊んだり、それこそ、同級生とか、後輩とか、そういう女の子と付き合ったり。そういう青春を、奪ってしまっている気がして」
そう言って、わたしは、亜希子さんの顔を伺った。
亜希子さんは、真剣な顔で、まっすぐ、わたしを見ていてくれていた。
「……岬ちゃんってば、優しすぎるんだから」
そんな亜希子さんの言葉に、わたしはぶんぶんと頭を振る。
「違うんです! そういうのじゃなくって、もっとこう、わがままな感情なんです。自分でもうまく言えないんですけど……。颯くんと釣り合うような、素敵な女性になりたいのに、いつまでも子どもっぽくて。でも、颯くんの歳の子たちと同じテンションではしゃげるかと言うと、それも自信なくって」
わたしは、つい目線を下げて、ぽつんと呟く。
「カッコよくも、かわいくもなれない、自分の中途半端さが情けないんです。今までなにも考えずに追いかけるだけだったけど、颯くんがふり向いてくれたことで、颯くんの自由を奪ってしまったんじゃないかって、不安になって……」
きゅっと、ワンピースの生地を握りしめる。
それから、ばっと勢いよく顔をあげて、おおげさに頭をかいた。
「な、なんて! 『なにを今さら!』って感じですけどねっ! こんなの、ガラじゃないのに──」
「そんなことないよ」
おだやかだけど、凛と、響く声。
亜希子さんが優しくそう言ってくれて、わたしは、思わず「えっ」と呟いた。
亜希子さんはわたしを見て、にこりと笑いかける。
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