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「わかるよ。わたしも、二十代の時、似たような不安を感じていたから。将史くんとのこと」
マサシクン……。
そう頭の中でくり返して、「颯くんのお父さん」と認識するのに、ちょっと時間がかかってしまった。
「……亜希子さんも?」
「うん。わたしも、将史くんが私のアルバイト先の面接に来てくれたその時から、将史くんのこと大好きだったから。けど付き合ってからの方が、なにかと不安だらけでさ。特に、わたしが働き始めてからは」
そう言って、亜希子さんは苦笑いをした。
……え、あれ……?
「……将史さんって、おいくつ……?」
「四十三。私の四つ下」
……えっ!?
「亜希子さん、年上っ!?」
「……あら? 言ってなかったっけ?」
「き、聞いてないですぅっ!!」
「まぁ、将史くん、ぬぼっとしてるから私より年が上に見えるのよね」
「ぬ、ぬぼっとって……」
し、衝撃だ。八年間知らなかった。
まぁ、言われてみれば確かに、亜希子さんの発言権の強さ、納得がいくけれども……!
「だから、岬ちゃんと颯のことは、ちょっと自分に重ねてちゃってる部分もあるのよね。おんなじ四歳差だし。……って、わたしの歳までバレちゃうじゃない、もう!」
そう言って、亜希子さんはあははと笑った。
そして、なにか懐かしむような顔で、亜希子さんは口を開く。
「『学生なんて将来性ないじゃん!』とか友だちに言われて不安になったり、周りが次々と結婚して焦ったり、将史くんのことが好きな後輩にオバサン呼ばわりされたり、色々したけどさ。でも今、私、幸せだから。あの時の私に、『大丈夫、間違ってないよ』って、そう、伝えてあげたいなって思う」
亜希子さんのその言葉を聞いて、胸の奥が、じわじわとあったかくなるような感覚になった。
こんな風に、言えるようになりたい。
心から、そう、思った。
「……って! ごめんなさい、自分のことばっかり! 岬ちゃんには岬ちゃんの悩みがあるのに、簡単に『わかるよ』とか言っちゃいけないよねぇ! これだからオバチャンは……!」
「あ、いや、全然そんなことないです! ……すごく、すごく、勇気づけられました。ありがとうございます」
「ほんとー? とにかく、わたしからしたら、岬ちゃんはうちの子にはもったいなさすぎるくらい素敵な女の子よ。あー、早く、本当に娘にならないかしら~」
「ひっ!? そ、そんな、畏れ多い……!」
「それにっ!」
そう言って、亜希子さんはわたしをじっと見つめて、にやりと笑う。
「そのワンピース、すっごく、今の岬ちゃんにお似合いよ。颯も絶対、そう言うわ。あの子、岬ちゃんが思ってる以上に、岬ちゃんのことが大好きなんだから」
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