Ⅴ 岬(24歳)

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電車を降りてからも、わたしと亜希子さんは、他愛ないお話をしながら途中まで一緒に帰った。 亜希子さんと将史さんのなれそめ話は本当に面白くって、今までなんで話してくれなかったんだろうと思っちゃうくらいだった。 亜希子さんは亜希子さんで、「娘と恋バナって夢だったのよねぇ」なんて言ってくれて。 いつの間にか「娘みたい」から「娘」になっている言い方に、どぎまぎしつつも、胸がほっこりした。 わたしもわたしで、「もしお母さんが生きてたら」なんて思いながら、歩いていた。 早々に帰って来た娘に、お父さんはちょっと驚いた顔をしたけど、特に詳しく事情を聞こうとはしなかった。 ……まぁ、デートだって出て行った娘が早めに帰って来たら、色々と心配はするよね……。 でも、心配には及ばないよ、お父さん。 なんだか色々あったけど、亜希子さんのお陰で、わたしは今、猛烈に燃えているから! てか、そもそもの話。 わたし、五年以上、ずっと颯くんに拒否られながら片思いしてたんだもん。これくらいの劣等感に負けてたまるか。 颯くんにフラれない限り、この幸せに、くらいついてやるっ! そんなことを思いながら、夕飯の唐揚げをたいらげたわたしは、その後もごく普通にお風呂に入り、ごく普通に床についた。 スマホのロックを解除して、颯くんとのトーク画面を出す。 『今日は先に帰っちゃってごめんね。今度の土日とか、会えないかな』 そうメッセージを打つと、ものの数秒で既読が付いた。 『こっちこそ、気を遣わせてごめん。日曜日なら大丈夫。おれも話したいことあるから』 ……。 ……んんっ? 『そっか、わかった。じゃあ日曜日ね』 『じゃあ11時くらいに迎えに行く』 ……なんて。 平静を装ってやり取りを進めてみたけど、内心、もやもやが止まらない。 そんな、改まって、話したいことなんてなんだろう。せっかく心が立ち直ったところだったのに! さ、さては、あんな素っ気なく帰っちゃって、わたしに幻滅したとか? あ、あの、颯くんのこと「颯ちゃん先輩」なんて呼んでた女子高生に告白されちゃって……とかっ!? 良くない考えばかりがぐるぐると回って、わたしはまた、悶々と悩む羽目になるのだった。
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