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運命の、日曜日がやってきた。
颯くんを信じたい。亜希子さんを信じたい。
信じたいけれど、あのラインの書き方は、どうしても覚悟をせざるを得なくなる。
……颯くんの誕生日、来週だというのに。
そんな風に思っていると、ピンポンと、我が家のチャイムが鳴った。
お父さんに「行って来ます」と言って、カバンを肩にかけて、玄関を開ける。
「おはよ」
「お、おはよ……。……あ、えっと、この前はごめんね! 先に帰っちゃって」
「いや、こちらこそ。巧のせいで気を遣わせてごめん」
「ぜんぜん! そんなことないよ」
そう首を横に振って、わたしは、ふと気づく。
「あれ? 今日は、車じゃないんだね」
こういう待ち合わせの時、颯くんは大抵、うちのアパートの前に車を停めて迎えに来てくれる。
けれど、今日は、颯くんの車は見当たらなかった。
「颯くんの助手席」という特権が行使できないことに、わたしの焦りは、ますます強くなっていく。
「あ、あぁ……。ちょっと、歩いて行きたいところがあって。その方が早いからさ」
「……歩いて?」
「うん。ついてきて」
そう言われて、わたしは、颯くんに続いて道を歩く。
すっかり見慣れた、家から颯くんの深町家までの道。
その間で、颯くんが行きたいところって?
そういえば最近、細い路地を入ったところにピスタチオのケーキが美味しいカフェができたとか聞いたことあったけど、そこかな。
そ、そんな近所で、「話がある」なんて、それ、鬼すぎない……?
そんなことを思いながらついていくと、颯くんは、ちょうどウチと深町家の中間くらいの住宅街で、ぴたりと止まった。
あれ、ピスタチオのカフェ、もっと先のはず……。
「岬」
そのとき。ふと颯くんに呼ばれて、思わず、どきりとする。
……しかも、なんだか、そうわたしを呼ぶ颯くんの声は、いつもよりも固い感じがした。
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