Ⅴ 岬(24歳)

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「……な、なに……?」 だから、つい、わたしも緊張して返事をしてしまう。 ……これは、やっぱり、もしかするともしかして。 悪い方に考えると、胸がきゅうっとどんどん締め付けられるように痛む。 いい歳なんだからと自分に言い聞かせて、溢れそうになる涙を、必死にこらえた。 「……この前、岬、おれの誕生日のこと、『なんでもリクエストして』って言ってくれたじゃん」 「……へ?」 「へ?」 「あ、いや、うん、言った! 言ったけど……」 「そのリクエスト、聞いてもらおうと思って」 なんで急に、そんな話を? しかもこんなところで? 颯くんが何を考えているかわからなくなって、思わず眉間にしわが寄る。 颯くんはといえば、そんなわたしに気づかないくらい、なぜだかキョロキョロと目を動かしていた。 「……いい?」 「えっ!? あ、うん、わたしがローン組めるくらいまでの値段なら……」 「どんだけ高いもんおれが言うと思ってるんだよ。……まぁ、ある意味、それくらいの覚悟は必要かもだけど」 ……どういうこと? そう思っていると、颯くんは、言葉を付け足した。 「その前に。先に、岬に、もらってほしいものがある」 そう言って、颯くんは、わたしに右手のこぶしをゆっくり差し出した。 ……え? 颯くんの誕生日なのに、逆じゃ……? そう思いながら、わたしは、両手で受け皿を作るようにして、颯くんのこぶしの下に差し出す。 とん。 その手に、ごく軽い、重さを感じた。同時に、金属の、ひやりとした感触が手のひらに伝わる。 ……え、これ……!? 「鍵……!?」
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