その不思議、甘口なり

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 帰ったら飼い猫のミイでも愛でればいいじゃないかと内心言い聞かせつつ、ぽつぽつと人が残るオフィスを出る。自動ドアを出てすぐ脇にある自販機の前に人影があった。 「おつかれさまです」  声を掛けてきたその人影は、なんと新城くんだった。 「ここにいたんだ」  私の声が思いのほか弾んでしまう。  ひゅうっと吹き込んだ風がうなじを冷やし、私は思わず肩を縮めた。 「意外と寒かったね~」  季節はここまで進んでいたのか、とぼんやり空を見上げる。真っ黒な天に、ちらちらと星がまたたく。このままどんどん冬に向かっていって、そうしてまた春、夏と経ていくのだ。一年はあっという間だ。 「マフラー貸そうか?」  え、と驚いてそちらを見ると、新城くんが自分のマフラーを外しかけているところだった。 「あ」  寒いと言ったから、気を遣わせてしまったのだろうか。私は両方の手をぶんぶんと振る。 「いや、別に……」  気まずさで小さくなった声は彼には届かなかったのか、新城くんは私の前に立つとふわりとマフラーを首にかけてくれた。 「あ、ありがと」  やわらかくて、温かい。彼の体温が残っていたからか。そう考えると、ストーブにあたっているかのように顔が熱くなった。  彼と同じ匂いがする。傍にいるとほっとする匂いが。  目の前の彼を見上げると、一瞬かちりと視線が合った。しかし反射的に逸らしてしまう。顔を背けたまま横目で見ると、隣の彼は耳たぶまで真っ赤にして遠くを見ていた。うなじや耳の周りが短く刈り込まれた髪型のせいか、余計によく見える。  彼はピッ、と自販機のボタンを押した。取り出し口から出した缶をこちらへ向ける。 「はい、どうぞ」  それが私へ差し出されたものだと気づくのに数秒かかった。 「え? あ、ありがとう」  慌てて受け取ると手にじんわりと温かさが広がる。缶を手の中で回しながら、私は目を丸くした。 「なんで私がココアが好きってわかったの?」  彼は私の手元をじっと見つめた。
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