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日常に潜む不思議。そんなものはキリがないほど溢れている。例えば、夏が暑くて冬が寒いのはなぜか。これは小学生が挙げる定番の質問だ。何となくは理解していてもきちんと言葉で説明するのは意外と難しい。それから、体じゅうを流れているはずの血液を実際に目の当たりにすると、多少なりとも焦りや不快感といったマイナス感情を抱くのはなぜか。これは、血液が人体に内包された状態を正常と認識しているがゆえに、その「正常」が崩れた状態、すなわち血液が直接見える状態に対し感情が揺れ動くのだろう。もっともこれに関しては感じ方の問題であるため、万人が頷く解答というのは存在しないと思われる。
他にも、猫はなぜ可愛いのか、寒い日に飲むミルクココアはなぜあんなにも美味しいのか、など些細なことまで挙げればキリがない。
しかしそんな私にとって何が一番不思議に思われるか。「一番」と強調しても間違いではないほど強く刻まれた謎。それは「なぜ唇を接触させただけの動作が、ヒトの間では恋愛感情を示すものと認識されているのか」である。唇を接触させる動作、通常「キス」と呼ばれる。ロマンチックな響きを持っていて、その言葉を口にするだけでも顔を覆いたくなる。もちろん唇だけではない。手を繋ぐ、隣に座る──これらの行為も、気になる人が相手だとなぜか感情をかき乱される。電車やバスで赤の他人の隣に座るのは一向に構わないのに。
人によっては「子供みたいな疑問だ」と笑うかもしれない。「キスのことくらい、そんな大げさに考えなくても」と呆れられるかもしれない。更には私にそんな経験がないことを察知されるかもしれない。そう、全くその通りだ。「彼氏いない歴=年齢」の等式を成立させてから二十五年を過ぎた私である。もちろん恋愛感情を抱いたことくらいならある。かろうじて「ある」といえる程度だが。そんな感情もたいていは相手に伝えぬうちに霧消してしまう。消える前に伝えれば何か違っていたかもしれないと指摘されそうだが、如何せん私にはとてものこと勇気がなかった。それに当時は恋に燃えていても、消し炭になってしまえば「ああ、どうでもよかったな」と妙に納得してしまい、こんにちまで顧みることもなかったくらいである。
とはいえ、経験がないからこそ余計に気になるのだ。ドラマや街中のカップルを見てさえも、キスシーンや触れ合う姿に密かに胸を高鳴らせつつ、疑問を一層強めるのだった。
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