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ヴェリエール国の首都は国土のほぼ中央にある。その首都の中央には、広大な大きさの王宮が広がっている。 国中に拠点を持つ教会や軍の本部、議会や司法府などはすべて正殿に収められている。 その正殿だけで町と呼べる広さだが、正殿は王宮全体の3割ほどの範囲しかない。 正殿の奥には、王族のプライベートな空間として機能している後宮がある。 その後宮のさらに奥に、アナハバキの民の住まいがあった。 宮殿内を流れる川に囲まれたアナハバキの居住区には、すべてのアナハバキたちが暮らしている。 王の許可なく川を渡って居住区の外にされず、ほとんどのアナハバキはこの居住区のなかで一生を終えるのだった。 アナハバキの社会のなかでも限られた者だけが、橋を渡って後宮へ働きにでたり、軍で努めたりできる。一度外に出ることができれば、それは大変な名誉だった。 この世でアナハバキを従わせているのは、世界広しといえどもヴェリエールの王族だけだった。 しかしかつてはヴェリエールでもアナハバキは迫害の対象で、ほとんど人間とは見なされず、妖魔の類いだと考えられていた。 人並み外れて頑丈な体。 天候を操り、人心を惑わし、過去や未来を言い当てる不思議な力。 何より、妖魔に襲われないという特権。 アナハバキの力を手に入れることができれば、人々は妖魔に怯えて暮らす必要がなくなる。 それは全ての人間が喉から手が出るほど欲しがった、『平穏』 というものだった。 かつてヴェリエールで行われた迫害は、乱獲と言い換えてもかまわない。 アナハバキには奴隷としての価値があった。またその血や髪や臓器に高値がつけられ、公然と巷で販売されていたのだった。 ヴェリエールの王族の祖先たちは、アナハバキを奴隷の身分から解放し安全を保証する代わりに、協力というかたちでその力を手に入れることに成功した。 アナハバキに対しては『人間からの安全』を、人間に対しては『妖魔からの安全』確実に提供できるようにななったのだった。 ヴェリエール王室の祖先たちは、これによってこの世で最も絶大な権力をてに入れたのだった。
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