Timeless

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 初夏の青空に混じってゆく煙の、燻った香りがそこらじゅうに漂っている。この空気を瓶に詰めて持って帰りたいと思ったけれど、手頃な瓶はどこにもないので諦めた。街のはずれにひっそりと建っているこの火葬場の周りには林しかないのに、野鳥の鳴き声すら聞こえてこなくて、静かな時間が過ぎていく。    駐車場の日陰でしゃがんでいると、母がやって来た。どこに行くにもしっかりと化粧をする母だが、今日はいつもより控えめにしたらしく、目元に疲れは目立っているが、態度は普段とあまり変わらない。一仕事終えたような感覚なのだろう。母は今日、一滴も涙を流すことはなかった。冷めているのではなく、母自身の根性の強さというか、プライドがあって、泣かないとしているのかもしれない。でも、泣かないことが不思議とは思わない。それが母なのだ。  
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