中野区の吸血鬼

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 すぐに血は出さない。軽く滲む程度の引っ掻き傷を少しずつ、広げていくのは、彼女自身を焦らすためだ。  手の甲をキャンパスに見立て、アイスピックを小さくなぞるように刺しては引っ掻く。  ガリガリと肉を裂く音が低く鳴る。  うっすら充血した傷は、蝶に見えた。彼女は手の甲にピンクの蝶を描いていた。  よほど集中しているのだろう。脱力して少し開いた彼女の口からヨダレが溢れる。  途端、彼女が力を入れてアイスピックを突き刺す。丸く、豆のよな血の固まりが浮き出て、瞬間液体となり、手の甲を流れていく。  彼女はもうやめられない。ここまで焦らしたのだ。ヨダレを更に溢れさせて、今度はガリガリと店中に響く音を立て、力強くアイスピックを走らせる。  手の甲から溢れた血は、テーブルの上に血溜まりを作る。ピンクの蝶が真っ赤に染まり、新たな血を溢れ出させる。  
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