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——いつも、追いかけている。
「伊勢谷先輩っ」
「あ、桧山」
常にその姿を探して、追いかけてる。
有言実行。願った通り『同じ学校、同じ部活の先輩と後輩』になれたから。
「伊勢谷先輩、今日は六十分ジョグでいきましょう。つき合ってくださいよ」
「うん、いいよ」
少しでも多くの時間を共有したくて、ひたすら纏わりついてる。
「伊勢谷先輩。今日はペース走、お願いします。一万五千、さくっとできますよね?」
「もちろん、いいよ。頑張るね」
そうしてるうちに、気づいた。
「え? もう、へばったんすか? 嘘でしょ。まだ五千、残ってますよ。ペース落とさず、いけますよね?」
「……っ、大丈、夫。先にへばって、ごめん」
俺を一瞬で捕らえ、その魅力で縛りつけたこの人は、とんでもなく面倒くさい人なのだと。
「よし、深呼吸したし、また走れるよ。桧山がやりたいだけ最後までつき合うし、一緒に頑張ろう」
「は、はい……よろしくお願いします」
あの冬の始まりの日。その才能をこれでもかと俺に見せつけた走りは、練習では一切、見られない。
とことん無自覚なのか、自分は『努力するしか能のない凡人』だと思い込んでるせいらしい。
顧問や上級生たちは、『本番にだけ強い性質なら、わざわざ自覚しなくてもいいんじゃないか』という考えで静観してるものだから、本人は自分の実力を知らないまま、平凡オーラを出しまくってる。
それで、いいのか?
「伊勢谷先輩、今日も練習につき合ってもらえて助かりました」
いや、いいんだ。無自覚な謙遜キャラ、俺にとっては好都合だ。
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