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『伊勢谷先輩の走りは、ごくごく平凡だから教わることは何もない。自分は練習のペアだから仕方なしに一緒にいるけど、優越感に浸れるのが特典なだけ』
兼子には知らんと言ったが、一年生同士が集まった場で、俺がこう言ったのは事実。
こんなこと微塵も思ってないけど、このくだらない嘘は、ライバル避けの牽制目的なんだから仕方ない。
兼子の言った通り、少しでも伊勢谷先輩のことを知ってるヤツなら、即、真実じゃないとバレてしまう陳腐で姑息な思惑だ。
そして、俺はちゃんとわかってる。気づいてる。
俺が嘘をつく度、好きな相手の名誉を傷つけてしまっていること。
その『嘘』を嘘で塗り固めることしか知らない俺は本当に馬鹿野郎で、伊勢谷先輩を純粋に慕ってる兼子のほうが心がずっと綺麗なことも。本当は、ちゃんとわかってる。
だけど、止められない。独占したいから。
思いがけない幸運で、練習のペアになれた人なんだ。練習の時間、部活の間だけでもいい。俺が独占したい。
誰よりも傍に。伊勢谷隼の一番近くには、俺が居たい!
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