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「……っ、すごい!」
だけど、千葉先生の言ったことは当たってた。
「何だよ、今の走り。すげぇ! あんな追い上げする選手、初めて見たっ」
浅草、江戸通り沿いに位置する千葉整骨院から程近い隅田川。その橋の上で、俺は目を見開いて興奮していた。
数秒前、風そのもののような走りで俺の心を鷲掴みにしていった奇跡のような姿を、脳裏にはっきりと浮かべて。
良い刺激。完全復帰のためのステップ? そんな言葉でひと括りになんか出来ないほどの威力で俺を捕らえてきた人と、その日、出会った。
「今の選手のことか? 祥徳学園の3区は……あぁ、伊勢谷隼だ。一年生らしい」
「伊勢谷、隼? 祥徳学園の一年……俺より一こ年上かぁ……うわぁ、かっけー! すげぇ、かっこよかった! なぁ、千葉先生。俺、祥徳に行く! 外部受験して、今の選手と一緒に走る! 走りたいんだっ!」
国家公務員の父親について長年を海外で過ごし、インターナショナルスクールに通いながら、クラブチームで陸上の練習していた俺の進路をソッコーで変更させるほどの魅力ある走りを見せてくれた人。
「見てろよ。絶対に追いつく。追いついて、隣で走ってやるからな」
『憧れ』と『執着』が『好き』と同義だと、陸上部の後輩として出会う前から俺に自覚させた人。
「伊勢谷隼、待ってろっ」
——冬の始まり。中三の、とある休日。『つまんねぇ大会』が、血が沸騰するほどの興奮と感嘆を経て、その人しか見えない『運命の出会い』に変貌した。
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