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「俺、先輩と練習すると、いつもすげぇ気持ち良く走れるんすよ。明日もよろしくお願いしますっ」
「桧山、お疲れ。うん、いいよ。僕こそ、質の良い練習ができて助かるよ。これからもよろしくな」
凡人だと思い込んでくれてるおかげで、俺が常にふたりきりになれるよう強引なペア練習のスケジュールを組んでても、それに一切気づかないという利点がある。
「へへっ、めちゃ嬉しいっす。俺、去年の駅伝大会での先輩の走りに憧れて、この学校選んだんで。一緒にやれて本当に嬉しいんです」
でも、あまりに天然で鈍感すぎても俺的には困るから、ちょいちょい、こうやって『好き』アピールを挟んでみてる。
「んじゃ、クールダウンも一緒にお願いします」
「うん」
わけなんだけど、ちゃんと相手に伝わってるのか、少し自信がない。
のんびり、おっとりな性格そのものの、ふにゃっとした笑みがテンプレの伊勢谷先輩は、俺が『憧れてます』って言う度に、微妙な反応を見せるから。
どこか痛そうな、切なげなそれは、もしかしたら自己肯定感が欠如してる性質のせいだろうか、とも思う。
仕方ない。今はまだだめだけど、頃合いを見て、自分の凄さに気づいてもらおう。
けど、今はまだだめだ。まだもう少し、無自覚で真面目な謙遜キャラでいてもらわないと。
困る。すごく。
ただでさえ、ほっこりタイプの伊勢谷先輩は後輩受けがいいから、困る。
無駄にライバルを作りたくない。
途轍もなく魅力的で面倒くさい先輩、伊勢谷隼。
才能ある競技者以外の顔。色んな面を知って尚、この人のことを俺はとても好き。大好きなんだ。
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