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 風光明媚な皇大帝国に、間もなく春がやって来る。帝都から望む山々には雪帽子だけが残り、麓ではすでに青々とした草花が芽を出していた。  この春、民たちの間ではとある話題で持ちきりだった。  ――この春こそ婚儀が行われるのではないか。  ――どなたがご夫君になられるのだろうか。  ――どなたがなられても、盛大な婚儀になるだろう。  二年前の春、十八歳を迎えた帝室の末皇子、現皇帝の末弟の婚儀が行われると誰もが思っていた。ところが春の間にお相手が決まらず、初夏に差しかかろうというときになっても婚儀のお触れがない。そのまま夏が過ぎ、秋冬と季節が巡った。  昨年の春、この春こそはと誰もが思った。しかし、またもやお相手が決まらないまま夏を迎え、秋冬と過ぎ去ってしまった。  十八歳の間に夫君を迎えるはずだった皇子は、この春には二十歳になる。これまで帝室に生まれたΩの多くは十八歳の間に伴侶を迎えていた。そのことを考えると随分遅い婚姻になる。そういうこともあり、民たちは「この春こそ婚儀が行われるに違いない」と思っていた。  それほど民たちが婚儀を待ち望んでいるのは、皇子の姿をひと目見たいと願っているからだ。  ――あのお姿を見れば寿命が延びる。  ――どんな病もたちどころに治る。  ――あの方こそ天照神の御子に違いない。なんとありがたいことだろう。  眩いばかりの金の髪に天の陽のような金眼を持つ皇子は、皇大帝国の祖神・天照神の御子だと誰もが思っていた。皇子が持つ金眼に浮かぶ紅鏡(こうけい)の神眼こそ、天照神の御子である証拠……嶺藍(レイラン)殿下こそが皇大帝国に降臨された御子に違いないと民たちは信じていた。  そんな嶺藍(レイラン)だったが、十二歳で初めて新年の祝賀式に姿を現して以来、公の場に登場することはなかった。それは祝賀式の直後にΩだと判明したからだ。  帝室は、Ωの皇子皇女を決して公の場に出さない。それがかえって皇子の可憐な姿を民たちの心に深く刻み、ますます神聖化する要因となっていた。  そんな皇子でも、婚儀となれば姿を見せないわけにはいかない。皇大帝国始まって以来の美しく可憐なΩ皇子の婚儀なのだから、国をあげての盛大で華やかなものになるだろう。そのときばかりは、皇子も金離宮から出て姿を見せることになる。それが、自分たちが皇子の姿を見る最後の機会になるに違いない――民たちは、そう確信していた。 「この春こそ、ご夫君が決まり盛大な婚儀が行われるに違いない」  民たちは、御子と崇める皇子の婚儀を今か今かと待ちわびていた。  一方、皇宮から少し離れた金離宮に住む皇子・嶺藍(レイラン)は、民たちの期待をよそに今日も小さなため息をついていた。 「この春こそは……いや、昨年の春だってそう思っていた」  しかし、結局婚姻には至らなかった。あれほど「今年こそは」と気合いを入れ何度も話をしたのに、何だかんだといってはぐらかされてしまった。 「……その気がないなら、どうして夫君候補になることを引き受けたのだ」  思いが通じないことが悔しくて、嶺藍(レイラン)は形のよい唇をほんの少し噛み締める。 「いや、この春こそはうんと頷かせてみせる」  美しく整えられた右手親指の爪をカリ、と噛み、さっそく侍女に西風(せいふう)将軍を呼ぶように伝えた。  Ωと判明した帝室の皇子皇女たちは、成熟の証である発情の苦しみから早く解放されるために、成人するとすぐに夫君を迎える。十八歳になる前から夫君候補を選出し、誕生日当日から夫君選びを行って十八歳の間に婚姻するのが通例だった。たとえ十八歳の間に決まらなかったとしても、十九歳の間には必ず婚姻に至っている。  もちろん、婚姻に頼らなくても発情を軽くするための薬はある。代々優秀な医師や薬師を排出してきた一族が、長い年月をかけて調合した優れた薬だ。いまではその薬のおかげで大勢のΩが体の負担を和らげられるようになった。  しかし、帝室の濃い血を受け継ぐΩにはほとんど効果が見られなかった。代々受け継がれている強いα性と同じようにΩ性が強いのが原因と言われているが、どれほど調合を変えても薬では完全に押さえ込むことができない。なかには発情の強さから正気を失い、誰彼かまわず(しとね)に引きずり込む者までいた。  そこで帝室が考えたのが、強い成熟の証が顕著に現れ始める十八歳の間に夫君を与えることだった。それも、ただの夫君ではない。帝室のΩ性に抗い満足させられるだけのα性の者を夫君にするのだ。多くの場合は帝室ゆかりの者だったが、臣下であってもとくに優れた者が選ばれることもあった。  これには帝室側の都合も含まれていた。強いΩ性の皇子皇女と、それに抗えるほどのαの間には優秀なαが生まれやすい。生まれたαを帝室の中心に集めれば、揺るぎない権力を保つことができる。帝室は、優秀な血筋を保つためにもこれが最善だと考えていた。  嶺藍(レイラン)には、四方将軍の地位にある四人が夫君候補として選ばれていた。  一人は、怜悧な美しさと厳しい心を持つと言われる北凍(ほくとう)将軍。  一人は穏やかで心優しい東華(とうか)将軍で、嶺藍(レイラン)の従兄にあたる人物。  一人は、賑やかなことが好きで情熱的な性格と言われている南炎(なんえん)将軍。  そして最後の一人は、四方将軍を束ねる最年長の西風(せいふう)将軍で、多くの部下から慕われる人物だった。  彼らは当代でも類を見ないほど優れたαで、いずれが嶺藍(レイラン)の夫君に選ばれても当然だと思われる人物だった。そんな夫君候補である四人は、正式な夫君が決まるまでの間、嶺藍(レイラン)の“胎を埋める”お役目も担っていた。  胎を埋める――それは薬では抑えられない激しい発情の間、疼いてたまらないΩの胎を静めること。つまり、嶺藍(レイラン)(しとね)を共にして精を胎に注ぐということだ。  昔から、帝室のΩはαの精を取り込むことで発情が早く治まると言われてきた。そのことから、これも正式に婚姻相手が決まるまでの夫君候補者たちのお役目と定められていた。 「本当だったら、はじめの一回ですぐに決まっていたはずなのに……。いや、それ以前に決めるつもりだった」  過去、帝室のΩの半分ほどは(しとね)を共にする前に夫君となる相手を決めている。強いΩ性は、自分ともっとも相性がよいαを見ただけで判別できると言われているからだ。  もし顔合わせで決まらなかった場合は、定めのとおり(しとね)を共にしながら選ぶ。これも大抵は一巡目、遅くとも二巡目には決まっていた。  ところが嶺藍(レイラン)は、二年近く経とうとしているいまも夫君が決まっていない。それどころか、“胎を埋める”お役目でしか想い人と(しとね)を共にすることができない状態のままだった。それが嶺藍(レイラン)には悔しくて仕方がなかった。 「わたしだって、顔合わせですぐに伝えるはずだった。……いや、夫君候補となる前からこの男だと決めていた」  本当なら、十八歳の誕生日を迎えると同時に婚儀を上げられるはずだった。少なくとも嶺藍(レイラン)はそう思っていた。  十八歳を前に夫君候補を紹介されたとき、西風(せいふう)将軍の名があったことにどれだけ喜んだか、いまでも鮮明に覚えている。あのときの胸の高鳴りは、間違いなく彼こそが唯一の夫君だとわかっていた証拠だ。その気持ちのまま、思わずほかの候補者など必要ないと口にしかけた。それでも帝室の決まりだと思い直し、夫君になってほしいと伝えることができる当日までじっと辛抱した。  そうして念願の日、真っ先に西風(せいふう)将軍を(しとね)に呼び、直接本人に「あなたを夫君にしたい」と伝えた。ところが将軍は曖昧な笑みを浮かべたまま「殿下はまだお若いゆえ、そう焦らなくてもよいでしょう」と言ったのだ。  その後、何度も西風(せいふう)将軍に声をかけた。一、二カ月に一度は訪れるはずの発情が、嶺藍(レイラン)には安定してやって来ない。そんな状態では会える回数が少ないからと、発情していないときでも(しとね)に呼びつけた。そのたびに夫君になってほしいと伝えたが、将軍は決して「はい」と頷いてくれなかった。(しとね)の相手はしてくれるのに、のらりくらりと躱して承諾してくれないのだ。 「その気がないなら、最初から夫君候補なんて引き受けなければいいではないか」  結局は、そのことへと思考が戻ってしまう。候補となることを受け入れたのに、なぜ夫君になってくれないのかと堂々巡りだ。  力のある四方将軍なら、たとえ皇子の夫君候補に選ばれても断ることができたはずだ。ほかに三人も優秀なαがいるのだから、帝室側が無理にと引き留めることもなかっただろう。最初から夫君になることを考えていなかったのなら、そうしてくれればよかったのだ。それなら、こうして二年近くもの間悩み苦しむこともなかった。  そう思いながらも、たとえ西風(せいふう)将軍が断ったとしても許さなかったに違いないということもわかっていた。そのくらい、嶺藍(レイラン)は将軍だけを求めていた。  そもそも十二歳で初めて祝賀式に参加したとき、西風(せいふう)将軍を見初めたのは嶺藍(レイラン)のほうだった。発情どころかΩとさえ判明していなかったのに、ひと目姿を見たときから、西風(せいふう)将軍に心奪われた。当時はまだ将軍ですらなかった男なのに、この男しかいないのだと強烈に感じた。  式典の間中、嶺藍(レイラン)の視線は西風(せいふう)将軍にばかり向いた。すぐそばを通り過ぎたときなど、心臓が止まるかと思うほど緊張もした。  そうして新年の祝賀式が終わった直後、嶺藍(レイラン)は高熱を出し、七日後にはΩであることが判明した。式典直後にΩとわかったのも、西風(せいふう)将軍を自分のαだと感じたからに違いないと嶺藍(レイラン)はいまでも思っている。  物思いに耽っていた嶺藍(レイラン)の耳に、扉を叩く音が聞こえた。入室の許可を出すと、侍女が一人静々と入ってくる。 「嶺藍(レイラン)殿下、西風(せいふう)将軍よりお返事が届いております」 「ありがとう」  侍女が差し出した手紙を受け取った嶺藍(レイラン)は、文面を見て口元をほころばせた。そうしてすぐに、きゅっと引き締める。 「こうして呼び出せば来るのに、どうして頷いてくれないんだ」  これまで(しとね)に誘って断られたことは一度もない。今日のように、明らかに発情じゃないとわかっていてもだ。  Ωと判明した十二歳から十七歳まで、嶺藍(レイラン)にはっきりとした発情は訪れなかった。十八歳を過ぎても三回しか発情したことがなく、そういう意味ではすぐに婚姻しなければという切迫した事情もない。  だが、このままでよい状況でもなかった。嶺藍(レイラン)の発情が安定しないのは、避妊薬との体の相性がよくないからではないかとの御殿医の見立てがあったからだ。 「でも、避妊薬を口にしなければ(しとね)に入ってもらえないし……」  西風(せいふう)将軍は、(しとね)に入る前に必ず避妊薬を飲むようにと口にする。子ができる可能性が低くても、それは変わらない。たしかに婚姻前に子ができては問題になるだろうが、それが自分との婚姻を考えていないのだと突きつけられているようで、嶺藍(レイラン)の胸をちくちくと突き刺す。  それでも、愛しい男のそばにいたいからと必ず薬を飲んでいた。おかげで避妊薬を飲む回数が多くなり、それが正常な発情を阻害しているのではないかという話だった。  そもそも、婚姻前にこれほど避妊薬を飲む帝室のΩは通常いない。そうなる前に全員がαと婚姻するからだ。だから、婚姻前の体に避妊薬がもたらす影響はよくわかっていない。とくに帝室のΩはΩ性が強すぎるため、どのような作用をもたらすのかわからないことのほうが多かった。定期的な検査では発情を不安定にしているだけでほかに問題はないと言われているが、このままでよいとも思えない。 「こんな状態なのも、全部将軍のせいじゃないか」  もちろん、この二年近く何もしてこなかったわけじゃない。口で言って駄目なら強硬手段だと考えた嶺藍(レイラン)は、三度の発情のときに西風(せいふう)将軍に首を噛ませようとした。  Ωがαに首を噛まれるということは、揺るぎない唯一の関係を結ぶことになる。これは帝室が定める婚姻関係よりもずっと強い繋がりを持つということだった。つまり、首さえ噛ませれば将軍は嶺藍(レイラン)のものになる。  αにとっても首を噛むことは強烈な快楽を伴う行為で、通常は発情すると互いに首を噛まれたい、噛みたいと思うものだ。  それなのに将軍は、嶺藍(レイラン)が首を飾っている絹の装身具を外そうとするとすぐに止めた。発情で朦朧とした意識では、止める大きな手を振り払うことはできなかった。  そのことも嶺藍(レイラン)にとっては衝撃だった。首の装身具を外すということは、Ωがαのものになるのを了承するということだ。つまりは最大にして最上の婚姻の申し込みだというのに、発情状態の三度とも止められてしまった。発情していないときにも一度やろうとしたが、呆気なく防がれてしまった。 「このわたしが、四度も婚姻を申し込もうとしたのに……」  悔しいやら情けないやらで涙が出そうになる。それを我慢するかのように右手親指の爪をカリと噛み、いや今度こそ、と気持ちを奮い立たせた。  本当は、発情しているときに装身具を外すのが一番いい。Ωである嶺藍(レイラン)ほどではないにしても、相手のαも発情状態に陥るため判断が鈍る。そういうときなら首筋を噛ませることなどたやすいはずなのに、なぜか西風(せいふう)将軍は発情のときでさえそれを邪魔してきた。  そうなると、自分の体が比較的自由に動く発情以外のときに決行するしかない。発情以外で首を噛ませようとしたのは、四度のうちの最初だけだ。だからうまくいかなかったに違いない。もう四度も経験したいまなら、もっと上手に誘うことができる。 「首筋さえ噛ませれば、将軍はわたしのものだ」  それがΩとαの正式な婚姻方法で、絶対的な手段だ。首を噛んだαと噛まれたΩは、誰にも引き裂かれないほど互いが唯一の存在になる。とくにΩは発情が極端に楽になるだけでなく、誰彼かまわず(しとね)に引き込む状態を防ぐことができた。子も授かりやすくなるし、さすがの西風(せいふう)将軍も噛んだ相手との婚姻を拒絶することはしないだろう。  だから、首筋を噛ませさえすればいい……嶺藍(レイラン)は今夜こそと決意し、夜のための香油や寝衣選びに専念することにした。  嶺藍(レイラン)西風(せいふう)将軍を(しとね)に呼んだ日の夕方、貴族然とした服装に身を包んだ将軍が金離宮へとやって来た。渡り廊下を歩く様子を窓からそっと窺っていた嶺藍(レイラン)は、ここに来るときにしか見せない姿に胸をときめかせていた。 「将軍らしい鎧姿も勇ましくて好ましいが、わたしはこうした装いの将軍も好きだな……」  思わず「好き」と口にしていたことに気づき、白い頬にさっと朱色が走る。湯浴みで血色がよくなった唇を自分の指でなぞりながら、もう一度「好き」と口にした。たったそれだけで、全身に甘い痺れが駆け巡った。 「わたしの夫君は、将軍しかいない」  二年近くの間、西風(せいふう)将軍とは十九度、(しとね)を共にしている。そのうち発情だったのは三度で、それ以外は今日と同じ発情していないときだ。そのくらい将軍を求め続けてきた。 「それほど、わたしの心も体も将軍を求めているのだ」  今夜、五度目の求愛をする。首の装身具を外し、今夜こそ首筋を噛ませる。そう思いながら首を飾る装身具の留め金に触れた。  今宵の装身具は、いつもより簡単に外れる留め金のものだ。一カ所爪で外すことができれば、あとはするりと外れてくれる。こういうものを使うことは皇子として恥ずべきことなのかもしれないが、間もなく二十歳を迎える嶺藍(レイラン)には手段を選んでいる時間はなかった。 「もし将軍が承諾してくれなかったら、わたしは別のαと婚姻しなければならなくなる」  二日前、皇帝である兄からそのような内容の手紙が届いた。二十歳になっても伴侶がいないことへの体裁の悪さというのもあるのだろうが、それよりも嶺藍(レイラン)のΩ性の強さを心配しての決断なのだろう。  嶺藍(レイラン)は天照神の御子に違いないと尊ばれるほどの皇子だが、同時に稀に見るΩ性の強さも持っていた。その証拠に、発情していなくても体が疼いて辛抱できなるほどだった。  そういうこともあり、発情以外のときも西風(せいふう)将軍を(しとね)に呼んでいた。嶺藍(レイラン)自身は「気持ちゆえの行動だ」と信じているが、発情していないときでさえ、一晩では熱を収めることができない。それほどの状況を見れば、いかにΩ性が強いかは一目瞭然だろう。将軍との交わりはときに三日三晩続き、ほとんど発情状態と変わらない様相だった。  嶺藍(レイラン)のΩ性が強いことは、優秀なαである長兄が早々に気づいた。だから十二歳から皇宮を出て金離宮に住み、αでもΩでもない侍女たちに囲まれて過ごすことを余儀なくされてきた。夫君候補にはαの中でもとくに強いα性を持つ四人が選ばれ、正式な婚姻前から胎を埋めるように固く誓わせるほどだった。  そんな嶺藍(レイラン)を独り身でいさせることはできないというのが皇帝の考えだった。ただでさえΩ性が激しいというのに、体と心がそれにいつまで耐えられるかわからないからだ。  なにより、このままでは万が一の間違いが起きる可能性もある。たとえば、何かしらが起きて普通のαに首筋を噛まれるかもしれない。それ自体も問題だが、そうして互いが唯一の存在になったとしても、ただのαに嶺藍(レイラン)を静めることはできないだろう。抑えきれない嶺藍(レイラン)の衝動を静めるどころか、二人もろとも命が危うくなるかもしれない。  帝室と皇帝は、そのことを一番に案じていた。それだけ嶺藍(レイラン)のΩ性は強く凄まじかったのだ。 「わたしの体のことは、自分が一番よくわかっている」  薄々とだが、嶺藍(レイラン)も自分の体の欲望が強まってきていることには気づいていた。このまま夫君を得られなければ、いずれは心を病んでしまうだろう。満たされない欲望に体も心も蝕まれ、正気を失う可能性もある。  元々、帝室に生まれるΩはほかのΩよりも性が強く出ると言われてきた。だから、帝室に生まれたΩは早くに伴侶を得てきたのだ。 「わたしを静められるのは将軍しかいない。将軍しかいないと心も体もわかっている」  自分のΩ性を静められるのは西風(せいふう)将軍だけだとわかっている。だからこそこんなにも惹かれ、発情以外でも将軍に触れられたくてたまならくなるのだ。  コンコン。  扉を叩く音に「入れ」と声をかける。もちろん扉を叩いたのが待ちわびていた西風(せいふう)将軍だとわかっていての言葉だ。  カチャリ。  静かに開いた扉の向こう側には、先ほど見惚れていた将軍が立っていた。嶺藍(レイラン)は、胸がトクンと高鳴るのを感じながら愛しい将軍に微笑みかけた。
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