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「いた。」
その背中に何か硬い衝撃を受け、背後から人の声が聞こえ、びっくりした俺はベッドから転げ落ちるようにして飛び起きた。
床にしりもちをついてベッドを見ると、そこには柔らかそうな茶髪のショートヘアをした肌色の肩が布団から覗いていた。
「何だよ?騒々しいな。」
目を擦りながら疎ましそうに振り返った姿に、俺は息が止まりそうなほど驚いた。目の前にいるはずのない姿がそこにはあり、俺の目に映っているものの意味が分からなくて、俺はただその眠そうに目を擦る人物を凝視することしか出来なかった。
「何て顔してんだよ。人を幽霊を見るような目で見やがって。ついに酒でぶっ飛んだ?」
おかしそうに口角を上げるその人物は、俺が心の底から懺悔し、会いたいと望んだ幼馴染だった。
これはきっと夢だ。そうでなければ説明がつかない。
俺はベタに夢かどうか確認するように頬を思いっきりつねっていた。でも、頬はしっかりと痛みを感じており、思った以上に力を入れてしまって痛い頬を擦るこの感覚も、夢のものだとは思えなかった。
「何やってんの?大丈夫?」
受け答えもしなければただ凝視し続ける俺の様子がおかしいと思った幼馴染は、心配そうな表情に変えて首を傾げている。
「おまえ、かずきか?」
やっと絞り出した声は、先ほど見たテーブルに広がっていた酒のせいか、それともこの状況に対する緊張のせいか、酷く枯れていた。
「何言ってんだよ。アルコールでついに脳でもやられたのか?」
意味が分からないというように眉間に皺を寄せ、本格的に心配の眼差しを向けてくる。それでも俺は確認を止められない。
「本当に、和樹なのか?俺の幼馴染の、神山和樹であってんのか?」
「マジで大丈夫?ガチで頭やられたのか?」
「いいから答えてくれっ。お前は誰だっ。」
突然声を荒げる俺に、そいつは訝しげな表情をしている。
「一体何なんだよ寝起きに。それ以外に誰に見えてんの?病院行くか?」
「本当か?本当に和樹なのか?夢でもなく?幻覚か?」
俺の頭の中はパニック状態であり、状況が飲み込めないばかりか、これが幻覚なのではないかと思い至る。
しかし、俺はそれを確かめるように和樹に触れることが出来なかった。もしこれが幻覚ならば、触れてしまえば消えてしまいそうな気がしたからだ。仮に幻覚だとしても、和樹が目の前にいることが嬉しかった。
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