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「本当にお前どうしちまったんだよ?大丈夫?」
「和樹、お願いだから消えないでくれ。幻覚でもいい、何でもいいから俺の前から消えるな。ごめん、苦しめてごめん。お前が苦しんでるの気づけてやれなくてごめん。追い詰めてごめん。謝って許されることじゃないことは分かってる。それでもごめん。俺はお前を追い詰めるつもりじゃなかった。ただお前を傍に縛り付けたかっただけなんだ。ごめん、ごめん和樹。」
視線を逸らしたら和樹が消えてしまうかもしれない、瞬きしたらその瞬間消えてしまうかもしれない。そんな不安から俺は和樹を真っ直ぐ見つめたままただ謝った。
何度謝ったってどんなに懺悔したって許されることじゃないとは分かっている。それでも謝らずにはいられなかった。
込み上げる申し訳なさに涙は頬を伝い、視界が滲んで和樹がぼやけることに恐怖する。このまま消えてしまうんじゃないかと思い、涙を引っ込めたいのにその恐怖から涙は先ほどよりも膨れ上がる。
そんな俺に、和樹は困ったような表情をしながら布団をはぐって体を起こした。和樹はパンツ一枚しか履いていない状態で、未だに尻餅をついたまま動けない俺に跨り、徐に抱きついた。
和樹の肌が触れ、そこで初めて自分もパンツ一枚であることに気づく。久々の和樹の生肌の温もりだった。
「怖い夢でも見たのか?何に謝ってんのか分かんないけど、俺はここにいるよ。」
俺をあやすように背中をトントンと叩く和樹に、俺はそっと両腕を回した。触れたら幻想となって消えてしまいそうな恐怖を抱きながら、そっと、飴細工を触るようにその体に触れた。
指先に伝わってくる感触はしっかりしており、温もりもしっかり伝わってくる。指先から手のひら、腕へと触れる面積を広げながら、触れても大丈夫なんだと確信がもてれば、俺はその体を力強く抱きしめていた。
体が密着し、温もりと和樹の匂いがいっそう強くなり、現実味を帯びてくる。
きっと和樹は苦しかっただろうし痛かったと思う。それでも、俺はもう逃がさないというように力強く抱きしめてその力を緩めることができなかった。もう二度と、手放したくないと、そう思ったから。
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