失った重み

4/6
前へ
/80ページ
次へ
「少しは落ち着いたか?」 暫くその状態で和樹は付き合ってくれ、どれほど抱きしめていたのか、体が少し冷えを感じ始めた頃、やっと俺は和樹を抱きしめていた力を弱めることが出来た。 「あぁ。悪い、体冷えたよな。」 和樹と向き合い、和樹は俺の濡れた頬に触れて涙を拭うように手を滑らせている。 夢でも幻想でもない。目の前に和樹がいる。何が起こっているのかは分からない。それでも、和樹が目の前にいることが嬉しくてそんなことどうでもいいと感じていた。 「流石にな。春になったとは言え、まだ裸じゃ肌寒いよ。」 「何言ってんだよ。もう夏だろ。」 和樹が自殺したことが夢だったのかもしれない。俺は、長い長い夢を見ていたんだ。和樹が春とか寝ぼけたことを言うのも愛おしくて堪らない。 「は?お前の季節感覚どうなってんだよ。夏は先取りしすぎだろ。」 「お前こそ何言ってんだよ。7月はもう夏だろ。」 「お前マジで大丈夫?今4月だけど?明日入学式なの覚えてる?」 「は?入学式?」 俺の胡坐をかいた足の上に、俺の体を足で挟むようにして跨いで座っている和樹を見上げれば、呆れたように眉間に皺を刻んでいた。 「お前マジでスケジュール管理苦手だよな。入学式ぐらい覚えろよ。明日から俺たち大学生だぜ?」 「は?明日から?」 落ち着き始めていた俺の頭はまたパニックになり始める。 明日が大学の入学式とはどういうことだろうか。俺たちは大学2年生だ。やっぱりこれは夢なのだろうか。 「仁、お前マジで今日おかしいって。酒飲み過ぎたんだろ。未成年の癖に調子乗るから。シャワーでも浴びてきたら?頭すっきりさせて来いよ。俺は昨日一人で勝手に入ったからな。どんだけ叩き起こしてもぜんっぜんお前起きなかったから。」 そう言って和樹は俺の上から立ち上がり、再度体を温めようと思ったのかベッドに身を潜らせた。 俺は状況が全然つかめず、混乱しすぎて何を聞けばいいのかすら分からなくなり、とりあえず冷静になろうと思って大学入学を機に引っ越した一人暮らしの家の風呂場へと向かう。 脱衣所につきパンツを脱ぎ捨てながら、勝手は同じはずなのにどこか違和感を感じる。しかし、どこが違うのか分からず、体を温めるように熱めのお湯を頭から被った。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加