失った重み

6/6
前へ
/80ページ
次へ
そう思いながらも俺は居ても立ってもいられなくなり、浴室から出て適当に拭きながら脱衣所にある洗面台に自らの姿を映す。そこには、ほぼ白に染まったシルバーヘアーをした自分の姿が写っていた。 先ほど感じた違和感はこれだ。脱衣所の扉を開けて正面に洗面台がある。意識をしているわけではないが、毎度鏡に映る自分がここに来るたびに目に入る。だからさっきも自然と自分の姿を捉えていた。 しかし、意識をして見ているわけではないので気づかなかった。 俺は今すぐに確認をしたくて濡れた体のまま淡い茶色の髪をした和樹が寝ているベッドに駆け寄って揺すり起こす。 「おい和樹、今は何年の何月何日だ。」 「つめたっ。お前濡れたまんま出てくんなよっ。」 髪から滴り落ちる水から逃げるように布団を深くかぶる。俺はそれを阻止するように無理矢理剥ぎ取った。 「教えてくれ、今はいつだ。何年だ?」 「お前マジでどうしちゃったの?今回の酒そんなにやばかった?」 「いいから、教えてくれよ。今はいつだ?」 「あぁもう分かったから、風呂に戻れよ。ベッドが濡れるだろ。今日はXX19年4月6日。明日入学式だって何回も言ってるだろ。ったく、床も水浸しじゃねぇかよ。」 和樹は俺を風呂に連れ戻しながら今日がいつなのかを教えてくれた。 XX19年4月6日。 確かに、そう言った。でもそんなことはありえない。ありえるはずがない。だって、XX19年は去年なのだから。和樹が亡くなる、1年前。これは本当に現実なのだろうか。やはり俺は夢を見ているのではないだろうか。 「大人しく風呂入れ。まだ酔い醒めてないからさっきからおかしいことばっか言ってんだろ。二日酔いの薬、買ってくるからちゃんと入れよ。」 「一人で行くのか?これから?どこに?いつ戻る?」 風呂場に押し込む和樹の腕をつかみ、俺は矢継ぎ早に聞いていた。そのまま帰ってこないのではないかと不安になった。 様子がずっとおかしい俺に和樹は困り果てているのが表情からも見て取れる。 「お前は何を聞いてたんだよ。二日酔いの薬買いに行くって言ってるだろ。薬局だよ薬局。直ぐそこだし、一人で行けるよ。ガキじゃないんだから。」 「戻ってくるか?俺が風呂から出たらいる?」 「お前は初めてお留守番するガキかよ。戻ってくるに決まってるだろ。じゃなかったら何で態々二日酔いの薬なんか買いに行くんだよ。俺が必要なわけじゃないのに。お前が酔いを醒ますようにゆっくり入ってたら出るころには戻ってるよ。変なこと聞いてないでさっさと入れ。」 腕を振り払って再度俺を浴室に押し込み、和樹は扉を閉めた。 俺は仕方なく再びシャワーを出して、また熱めのお湯を頭からかぶって濡れた体で歩き回って奪われた熱を補う。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加