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説得を開始しますの
「久しぶりだな!我が恩人、スターク。」
「その節はどうも。貴方が救った職人は今日も順調に真新しい物を産み出していますよ。彼らに代わって、感謝をここに。」
クリステラが改編前から顔だけは知っている二者が晴れやかにスタークに笑みと言葉を贈る。
未来、クリステラと彼らに面識があった訳ではない。純粋に貴族として力があって有名だったことと、両方とも邪神の犠牲者だったからだ。
商業における有力者と武力における有力者。
命を刈る理由としては十二分だろう。
(盗賊をけしかけて店諸共消したのと、領地の井戸水に毒をブチ込んで弱ったタイミングを狙って金で雇った連中使ってモンスター軍団を引き連れる様に仕向けて潰すとかいう、今考えてもドン引き案件ですの。
なんなんですのあのクソ外道。やってる事完全に倫理の外側に居やがりますの!ジャンルが悪役令嬢じゃなければ普通に魔王か裏ボスですの。)
そう、今まさに、クリステラは正念場に立っている。
本来の未来で、彼らは邪神が徹底的に、強引に、荒々しく、惨たらしくそして、容赦無く潰した。それは逆に言えばあの邪神にとって彼らは十二分に脅威であった証左。
邪神の思惑通りにならないという事がクリステラの生き残る確率を上げていく事に繋がる。
(さぁ、勝負ですの!)
スタークの後ろから前に出て、二人の男を前に少女は立ち向かう。
ロムロ=リードのクリステラ=アマリリスに対する第一印象は『以外にもあまり利発そうではない』だった。
(アマリリスの家系と言えば『竜殺しのウーズ』・『百合紋様の懐刀』、そして知る人は『魔道具職人マンジュ』として知られている先代ウーズ=アマリリス、今まさに目の前に居る先代に負けず劣らずの『英幽』スターク=アマリリスと続けて傑物が並んでいる。
流石に竜を殺し、万難を穏やかに鎮め眠らせるとまではいかずとも相当な切れ者になる…と思っていましたが、存外普通の貴族の子女という感じですね。)
ただ、だからこそ首を傾げる事になっていた。
(彼が我々に手助けを求める様な事態に陥るとは思えない。そして、娘をわざわざ一緒に連れてきたということは彼女が何か今回呼ばれた事と関係がある。しかし、娘を自慢するにしてはトリオンの家まで呼ぶ意味は無い。
我々二人を呼ぶ様な理由で、彼の娘が居て、一体何を……?)
噛み合わないこのちぐはぐな状況に相対して、思考を巡らせて答えに近付こうとしていた。
ライム=トリオンのクリステラ=アマリリスに対する第一印象は『ま、当然っちゃ当然だな』だった。
(先代の竜殺しって言やぁ、武器を取るものならば誰でもその名前と伝説を知っているお伽噺の大英雄。酒の席と枕元でこの英雄が出てこなかった試しは無ぇ。
で、当代は俺が英雄として毎晩の様に寝物語で聞かせているから直に広まる。そんなの二人が上にいたらその娘は怪物に成る訳が無い。というか、成っちまったら多分ぶっ壊れる。
寧ろガキの頃にこの父親と祖父を見てよくもまぁ立派に普通の目をしたまま生き残ったみたいだし、今も俺とヤツを見てビビってる。その辺の小娘小娘してて安心するな。
でも、じゃぁコイツ、何でここに居る?)
本能故に最短距離。それでも目の前の小娘がこれからやる事は全く予想出来ていない。
「二人とも、忙しい中今日は招きに応じてくれて有難う。
今日呼んだ理由は僕からじゃなくて、娘のクリステラが君達にどうしても話したい事があるって言うから、呼ばせてもらったんだ。
少しだけ、娘の話を聞いてもらっても良いかい?」
「成程、そちらの御令嬢が我々に……ですか。フム…
クリステラ嬢、今日は如何いったご用向きで我々を呼んだのでしょうか?」
「ん?スターク、お前の娘と会ったこと、あったか?」
二人とも顔は怪訝、というか『予想外過ぎてどう反応して良いか分からない』といった顔。
よもや小娘からの言葉で大の大人三人、貴族三家が動く事態になるとは、思ってもみなかった。
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