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戸村にバレる
教室の隅で戸村とのなごやかなランチタイムだ。先に食べ終えた戸村が水筒から蓋に湯気の立つお茶を汲んでゆっくりと味わいながら
「で、タケちゃんは告白しないの?」
といきなりのたまった。最近、戸村は平原はハ行とラ行が重なって呼びづらいとか言って俺の下の名前健(たける)を縮めてタケちゃんと呼ぶ。そんな呼び方する奴は親以外では始めてだ。しかし俺の見た目とのギャップが楽しいとかで、クラスでもじわじわとその呼び名が広がりつつあって俺は辛い違和感に苛まれていた。その違和感の元凶がまた、ご飯が喉につかえるようなことを言い出した。ご飯が飛びだしそうで口を両手で押さえて咀嚼する俺に戸村はさらに畳み掛けた。
「いやさー文集の仕事終わっちゃったじゃん。このまま2人はまたクラスの顔見知りみたいになっちゃうのかなって。もったいないのう。」
「とーむーらー」
やっと声を出した俺をちらっと見た戸村はまたお茶を飲み視線を別に向けたあと、
「まあ、難しいかぁ。俺凄い動画見つけちゃったんだよ。部活ん時見せたげるからそれからまた考えると良いよ。」
科学部の部室で戸村が教えてくれた動画はピアノの連弾のジュニアコンクールだった。昨年の夏、中3の夏のコンクールらしい。蔵森さんと伊藤優の男女ペアの連弾で、優勝したために動画が公開されているらしい。息がぴったりで、受験生でありながらどれだけの練習を重ねたのだろうかと思ってしまう。
「ねっ。これ見ちゃうとこの2人デキてるって感じだろ。俺の妹がピアノやっててさ、曲探しててこの動画呼んじゃったみたい。俺のスマホで何してんのと思いつつのびっくり。」
舞台用なのかメガネはかけてないしドレスだし、名前が出てないと蔵森さんとは気づかないかもしれない。そもそもに教室でみる雰囲気と全然違う。でも蔵森さんだ。
「でさー、この伊藤優っての7組にいるし。陸上部だし。」
俺が知りたかった事を戸村が勝手に教えてくれた。
「で、タケちゃんどうすんのかなって。」
「そもそもに戸村、俺は蔵森さんとどうこうとは考えてないけど」
戸村が暴走しても困るのであえてシラを切ってみる。
「タケちゃん、暇さえあれば蔵森さん眺めてるくせに。もう、戸村妬いちゃう」
いや、待て戸村いつからそのカマキャラ。
「タケちゃんが気になるならもう少し調べてあげていいけど。まあ、その代わり俺の分データ打ち込み頑張ってね。さてとさてと実験、実験。部活、部活。」
戸村はそのまま部活モードなってしまったようだが、俺はあまり使いものになる状態にならず、早めのバス時刻で帰宅に向かった。
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