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side 直人 …………二ヶ月後 「……兄さん。僕、この服おかしくない?」 クローゼットの前で、いくつも服を出しては、何度も着替える光。 「……大丈夫…似合ってるよ」 俺の返事を聞いてるのか、聞いてないのか……部屋の中をあちこち移動しながら支度をしている。 「ああ。緊張する。楽しみすぎて昨日は眠れなかったし……」 「……体調は?特に変化はないか?」 「……うん。大丈夫。兄さんも一緒だし……」 「……よし。じゃあ出発するか」 今日は、東藤君が病気後、初めての舞台に立つ。そして、光もそれを見るために、初めて昼間に山を降りて出掛ける。 玄関を出て、眩しい陽の光が俺達に降り注ぐ。それを眩しそうに見上げ、嬉しそうに微笑む光。 この瞬間、俺のしてきたことは間違いじゃなかった、そう確信する。 ずっと………この顔が見たかった。 車を走らせ会場に着くと、降りた途端に光に手を繋がれた。 「……どうしよう。僕が緊張してきた」 「……ククク……なんでお前が?」 手を握り返してやると、意を決したように歩き出す。 会場の入口には、もうすっかり見慣れた二人が立っていた。 その姿を見つけた途端、俺の手を離して走り出す光。向こうからもこちらに向かって走り出す彼の姿。 …………本当に、俺の手を離れた瞬間だった。 確かにあった温もりが指先から溢れていく…… 「遥!」 「光」 青空ときらきら輝く日差しに包まれて、彼の元へ一直線に向かっていく。 そのうしろ姿が眩しくて……俺は目を細めた。 彼に抱き締められた光が、溢れる笑顔でこちらを見る。頷いて返事をしてやると、会場の中へ二人消えていった。 「……眩しい二人ですね」 「……」 同じように、二人を見送った佐伯さんが話しかける。 「……薬……造れて良かったですね」 「……はい」 その気持ちは嘘じゃなかった。たとえ俺の手から離れて行くとしても……… 「……少し寂しそうですよ」 「……そんなこと……」 「……」 「いや………そうですね……寂しいです」 「…やっぱり……」 そう言って笑った彼も、少し寂しそうに見えたのはなぜだろう…… 「……今日、お店定休日なんですけど…良かったら、飲みに来ませんか」 生涯、誰にも知られることのないと思っていた俺の気持ちを、唯一知っているこの人。 「……けっこう飲んでしまいそうですけど…いいですか?」 「……付き合いますよ」 そう微笑んだ彼の顔に、太陽の光が反射して……甘えてもいいかな、少しだけそう思った。
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