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side遥
あの日から、僕の世界はこの狭い部屋だけになった。
外に出ることも、人と話すことも、何もせず閉じ籠る日々。
従兄弟の駿兄さんだけが、毎日僕のところに来て世話をやいてくれた。
「.....今日は天気が良いぞ。少し散歩に行かないか?」
「............」
足は、無理をしなければ、何とか生活出来る。
でも......踊れない。
踊れない.......。
僕にとって踊ることは全てだった。過去もこれからも.......僕が生きていくことは踊ること、そう思っていた......。
返事をしないと僕に、駿兄さんは言葉を掛け続ける。でも僕には、兄さんの声が遠くで聞こえる。
......ごめん.....兄さん。僕はもう何も考えたくないんだ。
「.....薬....ちゃんと飲むんだぞ」
最後にその一言だけ言うと、兄さんは帰っていった。
薬....時々襲ってくる痛みを、逃す為に飲んでる薬。治る為じゃない。誤魔化してるだけ。
それでも耐え難い痛みは、薬を飲んでいても襲ってくる時があって。
踊れない......それを実感させられる。
自分が、こんなに踊ることに依存していたとは........。
初めの内は、もう一度踊れるようになる奇跡を探して、いろいろな情報を調べていた。駿兄さんも協力してくれて、いろんな病院にも行ってみた。
でも........どこも答えは同じ。
繰り返される言葉に、心の傷は増えていく。
それでも諦めきれずに、僕はPCの画面を見つめていた。
ある日、ふと目に入った言葉。
『万能薬』
そう書かれていた書き込み。
それは、噂話のような、都市伝説のような話だった。
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