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side 直人 鳴らした電話は、なかなか繋がらなくて、それでも切れずにいると、 『……はい』 やっと聞けたその声に、ほっと胸を撫で下ろす。 声の後ろでは、ガヤガヤと賑やかな音が聞こえてくる。 少しすると場所を移動したのか、その音が少し小さくなった。 『.....光.....賑やかな場所に居るんだな』 『.....うん』 『.....東藤さんと一緒なのか?』 『.....うん......ごめんなさい』 『.....いや....謝らなくても.........気をつけて帰っておいで』 『.....うん.....もう帰るから』 短い電話。 兄らしく伝えられただろうか…… 俺が電話したのは、弟。 ……大切な弟 呪文のように、自分に言い聞かせる。 上着を脱いでソファの背もたれに掛けると、大きく息を吐いて座った。 こうやって、広がっていく光の世界。俺の手元を離れ東藤さんの手を取って…… 俺は、その背中をそっと押すだけ。 その為に薬を完成させる。 光の笑顔のために、そうすることに決めたんだ…… どれくらい、そうしていたんだろう…… 玄関が開く音がして、光が帰ってきた。 「.......兄さん」 「.....お帰り」 ちゃんと帰ってきたことに安堵して、思わずその身体を抱き締めた。 「.....心配かけてごめんなさい」 「……うん……疲れただろう。もう部屋で休みなさい」 そう伝え光の身体を離そうとするが、俺の腰に回わされた腕が強さを増す。 ……どうしたんだ? 顔も上げずに、俯いたままの光。 迷子の子どもが、母親を見つけてしがみつくように、俺の身体から離れようとしない。 東藤さんと何かあったのか? 広がる世界に、幸せな顔で帰ってくると思っていた。それに、笑顔で答えようと。 なのに…… 「.......俺がずっと傍にいるから」 不意に出た言葉。口にした時から想いがどんどん溢れ出す。 東藤さんが、お前を笑顔に出来ないなら…… 俺は、もう一度光を強く抱き締めた。 背中を押そうと決めた心が、またぐらぐらと揺れ始める。
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