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side 直人 「……結局…ケーキ買ってこなかったな」 温室の屋根の上で、ふと昨夜の事を思い出す。 思いがけない人に、自分の心内を話した。 愛してる人が、今幸せなのか、確かめるのが怖いなんて…… 朝の眩しい光が庭を照らしている。この光の中へ、あの子の手を引いて行けば……答えは出るのに…… でも………もし治っていたら、光は、このままここに、俺の側にいるのだろうか…… 「……けっきょく自分の為か?」 光を離したくない、それだけじゃないか?心の奧で誰かが問いかける。 俺は、首を振って手を動かした。時間も忘れ目の前のことに集中していれば、いろいろと考えずにすむ。 額の汗を拭いながら、新しい釘に手を掛けたその時、 「先生!早瀬先生!」 門の方から聞こえる大きな叫び声。 視線を移すと、重なりあい庭に入ってくる人の姿。 慌てて屋根から飛び降りると、走り出した。 「先生!光が!」 なぜ?彼が? 追いつかない頭と、目の前でぐったりと彼に凭れかかる光の姿。 心臓が早鐘を打ち始める。薬は飲ませてる。大丈夫だと思いたい。 でもまだ、効果は試してない……… 今さら押し寄せる後悔。 久しぶりに会った彼は、おろおろと動揺を隠せず、青い顔で光を支えていた。 「家の中へ」 一言、言うのが精一杯だった。 診察室ではなく、光の部屋に誘導する。この部屋が一番陽の光を遮るからだ。 分厚いカーテンに手を掛け、一気に部屋を暗くする。 「ベットに寝かせて」 ベッドサイドに置かれた小さな灯りをつけると、光の顔を見つめた。 「.....兄さん....ごめんなさい」 力なく呟く光。 顔色は?脈拍は?手首に触れながら光の様子をしっかりと確認する。 自分の手が震えてるごとに、今気づいた。 肌の陽にさらされていた部分は、赤くなっているけど、特に問題はなさそうだ。体温は少し高め。脈拍は少し速いが正常の範囲内だ。 俺は大きく息を吐くと、光の額に手を当てた。 「......大丈夫だから」 それだけ伝えると部屋を出た。 部屋の外に出て扉に寄りかかり、顔を両手で覆った。光の前で俺が動揺するわけにはいかない…… 何年振りだろう。光が陽の光を浴びたのは……, 彼が呼び出したのか、光が自分から外に出たのか……どちらにしても、光がこの時間に、外に出る決断をしたことに間違いない。 それ程、彼のことが………
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